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竜が見た夢  作者: 無名の記録者
第11章 果てなき祈り
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第3話 終焉の鼓動

戦闘イメージBGM:Vector to the Heavens

(※検索するときは「(Xion)」のない方を選んでください)

可能なら、この曲を聴きながら読んでみてください。アレンとフィオナの覚悟が、より伝わります。

 瘴気が視界を濁らせ、空気は鉛のように重く押し潰す。

 足元は瘴気で滑り、踏み込むたびに地面が軋み、全身が揺さぶられる。


 アレンは握り合う手に力を込める。

 それに応えるように、同じ力が返ってくる。

 互いに視線を合わせ、目の奥で頷き合う。

 そしてその手を離した。

 背中越しにフィオナの気配を感じ、互いに息を整える。


 アレンは剣を握りしめ、背後で光を灯すフィオナは杖を構える。

 その前に立つ竜〈ヴェルゼオン〉は、瘴気で覆われた巨体をうねらせ、空間ごと押し潰すように襲いかかってきた。

 瘴気の嵐が周囲を揺らし、微かに足の感覚が麻痺する。

 肺にまとわりつく空気は、息をするたびに喉を焼くように重く痛む。


「ヴェルゼオン……頼む、もうやめてくれ!」


 名を呼び、懇願する。

 だが理性を失った竜の目は暗闇に沈み、ただ瘴気だけが意思を宿したかのように渦巻き、襲ってくる。


 竜は応えるはずもなく、瘴気の渦がその咆哮とともに大地を蹂躙し、衝撃波となってアレンの体に叩きつけられる。


 大地ごと揺さぶる衝撃が走り、その振動が体を突き上げ、息が詰まるほどの力が押し寄せる。

 フィオナが杖を支えに何とか耐えているのが見えた。


 剣と光で応戦するも、容易に跳ね返され、体が大きく揺さぶられる。


 救いたい……。

 胸の奥で叫ぶ願いが、現実の冷たさに切り裂かれる。


 倒さねば……。

 その思いが骨の髄まで冷たく突き刺さり、胸を締め付ける。


 鼓動は戦場の轟音にかき消され、呼吸は荒く、全身の筋肉が悲鳴を上げている。

 絶望が胸に重く響く。


 瘴気が渦を巻き、空間を裂き、生ける黒の奔流となって触れたものを蹴散らす。

 剣を振り、光を放つ。

 それでも衝撃は止まらず、体中を襲い、痛みが脳裏を突き刺す。

 力を合わせても押し返すのがやっとで、後退の危険は常に背後に迫った。


 身体は限界を超え、感覚は痺れ、時間の流れは異常に長く感じられた。

 腕も足も鉛のように重い。

 呼吸をすることさえ苦しい。


 助けたい。

 でも、目の前の現実がそれを許さない――だから、全力をぶつけるしかない。

 願いと、現実の圧倒的な力の差に、胸を引き裂かれる。


 手に握る剣はフィオナの浄化の光を纏って煌めく。

 だが、剣がわずかに振れるたび、指先の感覚が痺れる。

 汗と瘴気が混ざり、肌を焼く。


 正義とは何か。

 正しさとは何か。

 何かを守るためには、何かを捨てなければならないのか。


 正義のために、己の信じる正しさのために切り捨てる。

 それでは救済の環と同じではないのか。


 アレンは瘴気を剣で受けながら、視線だけを背後へ走らせた。

 そこに映ったのは、涙に濡れながらも揺るがぬ光を宿すフィオナの瞳。


 アレンの迷いを読み取った彼女は、声を張り上げる。


「本当に…方法がないなら!その決断はあなただけのものじゃない。私も、一緒に背負う!」


 フィオナは浄化の魔法を発動させながら、杖を握りしめる。

 叫びは涙を孕んでいたが、揺るぎない力強さを帯びていた。


「だから、躊躇わないで!」


 ――心は泣いていた。

 けれどフィオナの叫びを受けて、アレンはその目に、心の底からの覚悟を宿す。


 全身全霊を剣と光に込める。

 背後のフィオナも同じように光を研ぎ澄ます。

 もう目を合わせる必要もなかった。


 言葉はない。

 恐怖も絶望も、二人の胸の奥で握り潰され、ただ決意だけが冷たく光る。


 全てを賭け、全力で立ち向かう――その覚悟だけが、二人を支えた。

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