第3話 終焉の鼓動
戦闘イメージBGM:Vector to the Heavens
(※検索するときは「(Xion)」のない方を選んでください)
可能なら、この曲を聴きながら読んでみてください。アレンとフィオナの覚悟が、より伝わります。
瘴気が視界を濁らせ、空気は鉛のように重く押し潰す。
足元は瘴気で滑り、踏み込むたびに地面が軋み、全身が揺さぶられる。
アレンは握り合う手に力を込める。
それに応えるように、同じ力が返ってくる。
互いに視線を合わせ、目の奥で頷き合う。
そしてその手を離した。
背中越しにフィオナの気配を感じ、互いに息を整える。
アレンは剣を握りしめ、背後で光を灯すフィオナは杖を構える。
その前に立つ竜〈ヴェルゼオン〉は、瘴気で覆われた巨体をうねらせ、空間ごと押し潰すように襲いかかってきた。
瘴気の嵐が周囲を揺らし、微かに足の感覚が麻痺する。
肺にまとわりつく空気は、息をするたびに喉を焼くように重く痛む。
「ヴェルゼオン……頼む、もうやめてくれ!」
名を呼び、懇願する。
だが理性を失った竜の目は暗闇に沈み、ただ瘴気だけが意思を宿したかのように渦巻き、襲ってくる。
竜は応えるはずもなく、瘴気の渦がその咆哮とともに大地を蹂躙し、衝撃波となってアレンの体に叩きつけられる。
大地ごと揺さぶる衝撃が走り、その振動が体を突き上げ、息が詰まるほどの力が押し寄せる。
フィオナが杖を支えに何とか耐えているのが見えた。
剣と光で応戦するも、容易に跳ね返され、体が大きく揺さぶられる。
救いたい……。
胸の奥で叫ぶ願いが、現実の冷たさに切り裂かれる。
倒さねば……。
その思いが骨の髄まで冷たく突き刺さり、胸を締め付ける。
鼓動は戦場の轟音にかき消され、呼吸は荒く、全身の筋肉が悲鳴を上げている。
絶望が胸に重く響く。
瘴気が渦を巻き、空間を裂き、生ける黒の奔流となって触れたものを蹴散らす。
剣を振り、光を放つ。
それでも衝撃は止まらず、体中を襲い、痛みが脳裏を突き刺す。
力を合わせても押し返すのがやっとで、後退の危険は常に背後に迫った。
身体は限界を超え、感覚は痺れ、時間の流れは異常に長く感じられた。
腕も足も鉛のように重い。
呼吸をすることさえ苦しい。
助けたい。
でも、目の前の現実がそれを許さない――だから、全力をぶつけるしかない。
願いと、現実の圧倒的な力の差に、胸を引き裂かれる。
手に握る剣はフィオナの浄化の光を纏って煌めく。
だが、剣がわずかに振れるたび、指先の感覚が痺れる。
汗と瘴気が混ざり、肌を焼く。
正義とは何か。
正しさとは何か。
何かを守るためには、何かを捨てなければならないのか。
正義のために、己の信じる正しさのために切り捨てる。
それでは救済の環と同じではないのか。
アレンは瘴気を剣で受けながら、視線だけを背後へ走らせた。
そこに映ったのは、涙に濡れながらも揺るがぬ光を宿すフィオナの瞳。
アレンの迷いを読み取った彼女は、声を張り上げる。
「本当に…方法がないなら!その決断はあなただけのものじゃない。私も、一緒に背負う!」
フィオナは浄化の魔法を発動させながら、杖を握りしめる。
叫びは涙を孕んでいたが、揺るぎない力強さを帯びていた。
「だから、躊躇わないで!」
――心は泣いていた。
けれどフィオナの叫びを受けて、アレンはその目に、心の底からの覚悟を宿す。
全身全霊を剣と光に込める。
背後のフィオナも同じように光を研ぎ澄ます。
もう目を合わせる必要もなかった。
言葉はない。
恐怖も絶望も、二人の胸の奥で握り潰され、ただ決意だけが冷たく光る。
全てを賭け、全力で立ち向かう――その覚悟だけが、二人を支えた。




