幕間 旅人たちの語らい
ぱちぱち、と焚き火が静かな夜に小さく爆ぜた。
橙色の炎を前に、ジークが火の番をしている。
少し離れたところで、アレンとダリオスは毛布に身を包み、横になっていた。
まぶたが落ちかけていたアレンの耳に、不意に声が届く。
「……結婚してえな」
「……は?」
あまりに唐突すぎて、思わず低い声が漏れた。
ダリオスも身じろぎする。
「だってよ、子供っていいじゃん。セレナ村で見ただろ、ちっこいのが遊んでてさ」
焚き火の光に照らされた横顔は、少し真剣で、少し照れくさそうだった。
「……まずは相手を見つけろ」
「そりゃそうだけどさ」
ジークは唇を尖らせ、火に小枝を投げ込んだ。
ぱちりと赤い火花が散る。
「ある程度金が貯まったら、どこかの街に落ち着くのもありかもなあ」
その言葉に、アレンは少し目を細めた。
村や街を巡り、魔獣退治をして糧を得る――それが旅の日常。
落ち着く、という発想はほとんどなかった。
「師匠はどうなんだ。どこかに腰を据えたいと思ったことは?」
「っおい、アレン!」
ジークが焦ったように突っ込む。
短い沈黙の後、ダリオスが静かに口を開いた。
「……十年ほど前までは、ある村に住んでいた」
「へえ……」
「だが――手の掛かる弟子ができたからな。経験を積ませるために旅に出た」
「ちょっと待て、それ俺のことだろ!?」
ジークが焚き火越しに抗議する。
「お前だけじゃない」
ダリオスの口調は淡々としているが、焚き火に揺れる瞳はどこか遠くを見ていた。
全然覚えていない。けれど、もう十年以上もこの旅が続いているんだ。
アレンはそう思いながら、炎を見つめる。
「無駄口を叩くな。早く寝ろ」
「……はい」
「へーい」
夜風が焚き火を揺らし、橙の光が三人の影を大地に落とす。
その影は、どこか家族のように寄り添っていた。
火の番はジーク→ダリオス→アレンの順番で回っています。
ジークは朝が弱いので、ダリオスが睡眠時間を分けて、育ち盛りの二人のために調整。
比較的朝が得意なアレンが朝方を担当しています。
朝日が昇った後も、朝食ができるまではジークをゆっくり寝かせてあげることもよくあります。