第2話 想いを背に
瘴気の濁流が大地を呑み込み、視界を濃い灰色に染め上げる。
三人の戦士――ジーク、イゼリア、ナッシュ――は、その奔流の中で全身を剣と槍で守りながら立ち続けた。
地面はぬかるみ、瘴気が肌に焼き付くようにまとわりつく。
それでも三人は、全力で瘴気の本流を押し留める。
ジークは背を向けたまま、肩越しに吐き捨てるように言った。
「勝手に死ぬなよ。お前がいなくなったら、俺の皮肉、誰が聞くんだ」
短く尖った言葉に、信頼と覚悟が滲む。
息は荒く、筋肉は強張る。
イゼリアは震える槍を握りしめ、瘴気の流れを睨みつけた。
「竜を討つのが私の宿命……だが今は、お前たちを信じる」
言葉は短く、声はか細い。
それでも、その決意は槍越しに力強く伝わる。
槍の先に残るわずかな感覚や魔獣の瘴気で、手元が白く霞む。
ナッシュは、かすかに笑みを浮かべながらも、声は震えていた。
「最後くらい、俺も盗らせてもらうぜ……未来ってやつをな」
その笑顔の裏に、恐怖と覚悟が混じり合い、瘴気の奔流の中でも光を帯びていた。
瘴気魔獣が押し寄せるたび、誰一人として一歩も退かず、その勢いを受け止める。
剣と槍の軋む音、血の匂い、魔獣の咆哮が混ざり合い、周囲は戦場そのものに変貌する。
それでも、彼らの心は揺らがなかった。
互いを信じ、互いを支え、そして命を懸けて前を行く者たちの背中を守る。
瘴気の毒が肌に染みて、歯を食いしばりながら痛みと戦う。
腕に伝わる重み、武器越しに伝わる衝撃も、確かな現実として全員を縛る。
瘴気は激しさを増すが、互いに視線を交わすことなく、ただひたすらに立ち続ける。
その姿は、戦場における不屈の盾そのものだった。
一瞬の休息も許されない中、体は疲弊し、呼吸は荒く、衣服や鎧は瘴気で黒く染まる。
それでも、意志の力で押し返す腕が、アレンとフィオナの未来を守り続ける。
瘴気魔獣の奔流を受け止め、剣と槍で進む道を切り開く。
腕に伝わる衝撃、肌を焼く瘴気の痛み、地面に沈む足の感覚。
あらゆる感覚が麻痺しそうになりつつも、彼らは一歩も退かない。
漆黒の空と鈍く染まった大地の中、身体は疲労で重く、瘴気の痛みで感覚が鈍る。
時間は確かに進んでいるのに、戦いはまるで終わりのない悪夢のように感じられた。
遠くに見えるアレンとフィオナの姿を信じてはいる。
しかし、あの竜を本当に倒せるのかも、倒した後に世界がどうなるのかも、誰も、わからなかった。




