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竜が見た夢  作者: 無名の記録者
第10章 終焉の峰
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第2話 古碑に刻まれし真実

 アレンたちは足を進めていた。


 周囲は瘴気に覆われ、足元の石や黒ずんだ草すらも、世界の生気を奪われたかのように静まり返っている。

 空気が重く、呼吸のたび胸を押し潰すようだった。

 微かな風もなく、ただ瘴気が霧のように漂い、全ての音を吸い込んでいる。


 山の頂は盛り上がる峰ではなく、巨大な窪地を抱えていた。

 世界は漆黒に沈み、光はほとんど届かない。

 石も草も、あらゆるものが光を吸い込み、まるで色の存在を忘れたかのようだ。

 死の地の圧が、山全体から、身体の奥深くまで静かにのしかかってくる。


 その窪地に足を踏み入れた時。視界の奥に碑文が現れた。

 アレンは思わず息をのんだ。


 これまでの遺跡の碑文とは比べものにならないほど文字は鮮明で、保存状態もほぼ完璧。

 黒ずんだ瘴気に包まれていながらも、石の表面は神秘的に光を帯びている。

 暗闇に浮かぶかすかな輝きが、語りかけるように感じられた。


「……随分、保存状態がいいな」


 イゼリアが低く呟く。

 額に汗を浮かべ、石の表面を慎重に見つめる姿に、焦れったさと緊張がにじむ。


 アレンは一歩近づき、指先を碑文に触れた。

 冷たく硬い石の感触が手に伝わる。

 だが触れるだけで胸の奥に、かすかな震えが走った。


 瞳が淡く光るような感覚に包まれ、自然と文字を追う。

 以前なら理解できなかった古代文字が、なぜか意味を伴って脳裏に入ってくる。


 文字は静かに、だが確かに語りかけてくる。


「……リュミナ……?」


 初めて見る名前に、アレンは息を呑む。

 この碑文を含め、各地の遺跡や碑文を作ったのは、どうやらリュミナという人物らしい。

 読み進めるほど、胸の奥を貫く衝撃が走る。


 仲間たちは青ざめた顔のまま、訝しげにアレンを見つめる。


「アレン、まさか……読めるのか?」


 ジークの声は震え、同時に驚きと不安を含んでいた。

 アレンはゆっくりと頷く。


 石の前に膝をつき、額に手を当てる。


 全身に戦慄が走る。

 恐怖ではない――理解の震えだった。

 これまでの戦いの意味、剣を振った己の行い、そのすべてが問い直される。


「……俺たちは、何を信じ、何を恐れてきたんだ……」


 声にならない独り言を漏らしながら、アレンは碑文の言葉に目を走らせる。


「何だ……何が書いてあるんだ!」


 イゼリアが額の汗を拭い、急かすように声をあげる。

 焦れったさの中に、彼女なりの期待と切迫感が滲む。


 アレンは静かに、しかし確かに声を潜めて読み上げる。


 ――我、竜を封じたり。されど、憎しみのためにあらず、竜を救わんがためなり

 ――瘴気とは、人の欲望、悪しき心の集まりなり。増え続け、減ずること難し

 ――竜はその身に瘴気を背負い、世界を護りし者なり。されど我、竜を救うこと能わず。よって未来の者よ、我が志を継ぎ、竜を救いたまえ


 その言葉は重く、切なく、同時に希望を秘めていた。

 だが、アレンはすぐには受け入れ難く、無意識に首を横に振っていた。


「……これが、真実……?」

――私は、竜を封じた。けれどそれは、憎しみのためではない、竜を救うためである

――瘴気とは、人の欲望、悪意の集まりである。増え続け、減らすことは難しい

――竜はその身に瘴気を背負い、世界を護った者である。けれど私は、竜を救うことができない。だから未来の者よ、私の意思を継いで、どうか竜を救ってほしい

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