第7話 風に立つ刃、道を継ぐ剣
黙々と歩く。
背後から複数の視線を感じたが、足を止めなかった。
今ここで止まれば、二度と歩き出せなくなる気がしたからだ。
ジークが無言で前を歩く。
その背中が、誰よりも重く、共にあることを示していた
――本当は、声を上げて泣きたかった。
何かに縋りたかった。
もう、進みたくないと叫びたかった。
だが、託されたのだ。
誰でもない……ダリオス自身に。
地に立ち続ける大剣。
あれは、まるでダリオスの意志のようだった。
折れず、曲がらず、真っすぐに。
揺るぎない想いを、示しているようだった。
胸の奥をえぐる痛みも、全身を覆う疲労も、鈍く麻痺していく。
残されたのは、前へ進むための足と、手に握った剣だけだった。
「……ダリオスさん……」
嗚咽を堪えながら、フィオナがその名を呼ぶ。
彼女もやはり足は止めない。
アレンは顔を上げ、空を睨みつけた。
黒雲は重く垂れこめ、嘲るように光を遮っていた。
そうしていなければ、込み上げるものが溢れてしまいそうだった。
ジークが小さく鼻をすする。
「……あの人は、己の未来ではなく、他者の未来のために戦った。あれほど誇り高い戦士を、私は知らない」
イゼリアは低く、だが確かな声で、同じ戦士としての敬意を口にする。
ナッシュは「俺が代わりに…」と震える声で言いかけ、唇を噛んで言葉を飲み込み俯く。
沈黙の中で、アレンは歩みを止めず、ただ己の胸に叩きつけるように言葉を吐いた。
「竜を倒す。必ず、やり遂げる」
その声は、自分に言い聞かせるようでありながら、仲間すべてに響いていた。
握る剣が、掌の熱に呼応するかのように微かに脈打つ。
それは錯覚か、あるいは確かに応えたのか。
痛みと悲しみを呑み込んだ刃に、意志がゆっくり宿る。
だがその意志は、まだ危うい。
震え、揺らぎ、それでもなお進もうとする。
エルヴァント峰は変わらず、禍々しい圧を放っている。
それでも、進み続ける。
痛みを抱え、沈黙の決意を胸に、ただ竜のもとへと。




