第6話 真実の欠片
「師匠……?」
手を伸ばす。
視界がブレる。
ダリオスがそこにいない――その現実を受け入れられず、アレンは声を張り上げた。
「うあああぁあああ!!」
その絶叫が、重苦しい瘴気の中で振動する。
アレンは膝をついて、拳で地面を殴る。
地面に赤が散る。
けれど拳よりも痛いものがあった。
体が引き裂かれそうになり、片手で胸元を掻きむしるように握る。
心の痛みが胸をえぐるように突き刺さる――喉が詰まり、視界が熱で霞む。
それでも、アレンはそれを無視した。
痛みを押し込め、言葉にできぬ怒りと悲しみを飲み込む。
ゆらりと立ち上がる。
頬を伝う一筋の涙も、拭わず。
振り返る暇もなく、前へ進む。
背後には、仲間の存在がかすかな温もりとして残るだけだった。
腕の重みと肩の疲労を抱え、遠くで自分の心臓が誰かの音のように聞こえる感覚だけが残る。
全てを抱えたまま、アレンは歩く。
手が、熱を帯びるように光る。
掌から零れた光は周囲の空気を震わせ、まるで響き合うかのように、フィオナの身体にも微かに反応した。
二人の力は言葉にはできぬ共鳴を生み出し、痛みと決意の混ざり合った鼓動が空間に波紋のように広がる。
微かな振動が胸を打つ。
フィオナが驚きの息を呑むのを感じ、アレンはその鼓動と熱を意識しながら、自分もまた胸の奥で鈍く響く痛みだけが残る。
ヴァルセリオはその様子を静かに見守っていた。
冷静な視線で、光と共鳴する二人の姿を確認している。
「……貴方たちなら、届くかもしれません」
小さく呟いたその声に、希望と不安が入り混じる。
「竜は、どこにいる」
アレンは、抑揚のない声で問うた。
ヴァルセリオと視線が交わる。
どれだけそうしていたか、やがて、ヴァルセリオは何度か瞬きすると、ひどく凪いだ瞳をした。
論理的な瞳の奥に、一抹の思いを残しながら、必要な情報だけを吐き出す。
「竜の居場所は――この北の孤峰を登りつめた先、瘴気の中です」
一呼吸置き、さらに続ける。
「瘴気は、人間の業そのもの…。……答えは、貴方たちが導いてください」
声が空間に溶ける。
途切れ途切れの言葉だが、胸には託された重みだけが確かに残った。
答えたくない。
アレンは一瞬、言葉を探すように唇を噛み、視線を落とした。
「……礼はしない。でも、情報には感謝する」
ありがとうとは。
任せろとは言いたくなかった。
アレンは、痛みを飲み込みながらも、顔を上げて前に進む。
仲間たちも無言で続く。
「頼みます。竜を、そして人間を救ってください」
ヴァルセリオが縋るようにアレンに言った。
アレンは振り返らず、視線をまっすぐ前に向けて淡々と答える。
「俺たちが救うのは、人間だ」
誰も声を出さない。
ただ、心の奥で決意が芽吹き、闇の中で希望の光を辿る彼らの姿だけが確かにあった。




