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竜が見た夢  作者: 無名の記録者
第9章 託された灯火
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第6話 真実の欠片

「師匠……?」


 手を伸ばす。

 視界がブレる。

 ダリオスがそこにいない――その現実を受け入れられず、アレンは声を張り上げた。


「うあああぁあああ!!」


 その絶叫が、重苦しい瘴気の中で振動する。

 アレンは膝をついて、拳で地面を殴る。


 地面に赤が散る。

 けれど拳よりも痛いものがあった。

 体が引き裂かれそうになり、片手で胸元を掻きむしるように握る。

 心の痛みが胸をえぐるように突き刺さる――喉が詰まり、視界が熱で霞む。


 それでも、アレンはそれを無視した。

 痛みを押し込め、言葉にできぬ怒りと悲しみを飲み込む。


 ゆらりと立ち上がる。

 頬を伝う一筋の涙も、拭わず。

 振り返る暇もなく、前へ進む。

 背後には、仲間の存在がかすかな温もりとして残るだけだった。


 腕の重みと肩の疲労を抱え、遠くで自分の心臓が誰かの音のように聞こえる感覚だけが残る。

 全てを抱えたまま、アレンは歩く。


 手が、熱を帯びるように光る。

 掌から零れた光は周囲の空気を震わせ、まるで響き合うかのように、フィオナの身体にも微かに反応した。


 二人の力は言葉にはできぬ共鳴を生み出し、痛みと決意の混ざり合った鼓動が空間に波紋のように広がる。

 微かな振動が胸を打つ。


 フィオナが驚きの息を呑むのを感じ、アレンはその鼓動と熱を意識しながら、自分もまた胸の奥で鈍く響く痛みだけが残る。


 ヴァルセリオはその様子を静かに見守っていた。

 冷静な視線で、光と共鳴する二人の姿を確認している。


「……貴方たちなら、届くかもしれません」


 小さく呟いたその声に、希望と不安が入り混じる。


「竜は、どこにいる」


 アレンは、抑揚のない声で問うた。

 ヴァルセリオと視線が交わる。


 どれだけそうしていたか、やがて、ヴァルセリオは何度か瞬きすると、ひどく凪いだ瞳をした。

 論理的な瞳の奥に、一抹の思いを残しながら、必要な情報だけを吐き出す。


「竜の居場所は――この北の孤峰を登りつめた先、瘴気の中です」


 一呼吸置き、さらに続ける。


「瘴気は、人間の業そのもの…。……答えは、貴方たちが導いてください」


 声が空間に溶ける。

 途切れ途切れの言葉だが、胸には託された重みだけが確かに残った。


 答えたくない。

 アレンは一瞬、言葉を探すように唇を噛み、視線を落とした。


「……礼はしない。でも、情報には感謝する」


 ありがとうとは。

 任せろとは言いたくなかった。


 アレンは、痛みを飲み込みながらも、顔を上げて前に進む。

 仲間たちも無言で続く。


「頼みます。竜を、そして人間を救ってください」


 ヴァルセリオが縋るようにアレンに言った。

 アレンは振り返らず、視線をまっすぐ前に向けて淡々と答える。


「俺たちが救うのは、人間だ」


 誰も声を出さない。

 ただ、心の奥で決意が芽吹き、闇の中で希望の光を辿る彼らの姿だけが確かにあった。

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