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竜が見た夢  作者: 無名の記録者
第9章 託された灯火
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第4話 黒環に潜む意志

 瘴気の奔流はその場全体を覆い、空気が渦巻く。

 吹き飛ばされそうになり、アレンは剣を地面に突き刺して耐える。


 マグナ・オルビスに向けられたヴァルセリオの手がわずかに震える。


 外環と内環が絡み合い、回転は速さを増す。

 放たれる瘴気が制御を超え、逆流し始める。


 一瞬、風が止んだ。

 音が消え、世界そのものが息を潜めたようだった。

 そして次の瞬間――轟音が戦場を裂いた。


「なっ……」


 ヴァルセリオの声が掠れる。

 掌から(ほとばし)る漆黒の渦が、世界を押さえつけるかのように広がった。

 周囲の岩が裂け、大地が軋み、戦場は狂気の渦と化す。


 空中に瘴気が渦巻き、漆黒の光を放つ。

 その渦の中心で、規則的な線が浮かび上がった。

 所々ねじれ、揺らめきながらも、読める者には意味を成す――。


 アレンたちには全く読めず、ただの魔法の紋様にしか見えない。

 だがヴァルセリオは呆然としたまま、詰まりながらも声に出す。


「瘴気を、以て…世界を……汝のものと、せよ?」


 アレンは背筋を凍らせ、ジークとナッシュも息を呑む。


「全ての命は、汝の裁きのもとに…汝の望み、汝の意志、汝の世界なり……」


 文字が発する光が戦場を黒く染め、周囲の瘴気が暴走する。

 渦巻く瘴気が魔獣の形を取り、理性を失って暴れ狂う。

 地形までもが歪み、戦場の均衡が崩れていく。


 近くの岩が空中で砕け散り、地面が割れる。

 風圧に剣が弾かれ、仲間が一瞬吹き飛ばされる――まさに押さえ込まなければ危険な状態。


 瘴気の塊が影のように足元に迫る。

 剣で薙ぎ払うが、衝撃波に膝をつかされた。


 ジークは体勢を崩し、瘴気の渦に呑まれかけて、慌てて魔法防御を展開した。


 ナッシュは素早く影を駆使して避けるが、瘴気が触れた刹那、苦痛に顔を歪めた。


 アレンはどう動けばいいのかわからず、足が地に着かない感覚に陥る。

 衝撃で剣がぶれるたび、心臓が跳ね、思考が空回りする。


 思わず剣を握り直す。

 力が抜けそうになるのを感じながらも、必死に制御する。


「これは……救済の力じゃない!」


 思わず声を上げるも、隠しきれぬ揺らぎが混じった。


 ジークも顔を引きつらせ、ナッシュは瞬時に闇の魔法で仲間を守ろうと身を低くした。


 ヴァルセリオの目に苦悩が宿る。

 力は彼の意志を超えて暴走し、制御できていない。

 髪の艶にわずかな陰りが落ち、瞳の輝きが瞬間的に沈む。


「く……こんなはずでは……」


 ヴァルセリオが掌を握りしめ、瘴気を押さえようとするが、暴走は止まらない。


 突如、瘴気魔獣が跳ね、アレンの足元に体当たりを浴びせた。

 剣で受け止めようとするが、衝撃で倒れ込み、後ろのナッシュとジークが巻き込まれる。そしてそのまま瘴気の衝撃で吹き飛ばされる。


 フィオナは声がうわずりながらも慌てて浄化魔法を放ち、巻き込まれた仲間を防御する。


 吹き荒れる黒風は文字通り戦場を蹂躙し、片時の油断も許さない。

 立っていることすら難しい。

 踏ん張っても足が滑る。

 恐怖と焦燥で心臓が早鐘を打つ。

 どうすればいいのか――判断がつかない。


 ヴァルセリオの言葉を何度繰り返しても、古代文字が告げる意味は明確だった。

 これは人を救う“恩寵”ではない。

 瘴気の力で世界を縛り、従わせるための“道具”なのだ、と。


 瘴気の渦に視界がかすみ、仲間の声は遠くで反響するだけ。

 思考が抜け落ちたように空白になる。

 視界が狭まり、身体の感覚が錯綜して判断が一歩遅れる。


「押さえ込まねえと…!」


 ジークの声が戦場に響く。

 アレンの視界の外で、フィオナが必死に浄化魔法を唱えているが、アレンは気づけない。


 奔流は常に形を変え、予測不可能。

 刃がかすかに見えたが、それが仲間の剣か、敵の一撃かも判別できない。


 アレンは息を呑む。

 視界は漆黒の壁に閉ざされ、仲間の影も敵の刃も、すべてを呑み込むかのようだった。

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