第3話 刃と魔法の交響
ヴァルセリオが静かに手を広げた瞬間、空気が歪み、漆黒の稲光を孕んだ環がその胸の前へ滑り落ちてきた。
低い共鳴が戦場を震わせ、近くの石が吹き飛ぶ。
アレンたちは自然とそれぞれの武器を握り締めた。
「これは――マグナ・オルビス。竜を目覚めさせるための鍵であり、世界を救うための要です」
低く、しかし確信に満ちた声。
「これを通して、人は竜の恩寵を受けることができる……ですが、その力を制御するには、それ相応の覚悟と犠牲が必要だ」
アレンたちは一瞬息を呑む。
言葉は冷たいが、そこには揺るぎない理の流れがあった。
ヴァルセリオの両脇には、既に二つの影が控えていた。
一目で強者とわかる体格と雰囲気――ダリオスは自然と左側、イゼリアは右側を受け持つ。
互いに目配せし、戦闘の配置を瞬時に読み取った。
「アレン、ジーク、ナッシュ――前へ出ろ」
ダリオスの低い指示に、三人はうなずき、戦闘態勢を取る。
フィオナは後方に残り、魔法支援の態勢に入る。
合図も宣言も不要だった。
アレンが地を蹴り、ヴァルセリオに切り掛かる。
剣を振るうたび、火と風の魔法を組み合わせて発動させる。
炎が瘴気を裂き、突風がその輝きを研ぎ澄ませ、幾筋もの炎刃となって奔る。
ヴァルセリオの袖が裂け、わずかに目が見開かれる。
アレンが踏み込み、ジークが逆方向から切り込む。
ナッシュは影のように滑り込み、敵の注意を引きつける。
ヴァルセリオの視線を散らし、攻撃の軌道を読みづらくする。
さらに、ナッシュが静かに闇の魔法を展開する。
アレンたちの幻影を作り出し、四方八方から変則的に切り掛かる。
その一瞬、ヴァルセリオの詠唱が途切れる。
――刃が迫った。
ジークがアレンと呼吸を合わせて切り掛かり、アレンの剣が火と風を纏って鋭く弧を描く。
ヴァルセリオは無駄のない動きで受け、あるいは避ける。
だがナッシュが双短剣で攻撃しつつ隙を見て魔法を発動。
地面から何本もの鎖が現れ、ヴァルセリオを拘束する。
複数の攻撃が交錯する中で、初めてその顔に僅かな焦りが走った。
「ふ……なるほど、成長しましたか」
ヴァルセリオは呟き、わずかに口元を歪める。
その眼差しの奥には鋭い警戒が宿っていた。
瘴気が集まり、マグナ・オルビスの力が増幅する。
ヴァルセリオを押さえていた鎖が千切れて弾け飛ぶ。
マグナ・オルビスがさらに輝き、戦場の空気が歪む。
黒い霧雨が戦場に舞い落ちる。
その力の奔流が、アレンたちを押し返す。
それでも、アレンたちは立ち止まらない。
フィオナが浄化の魔法を発動、瘴気による体の重さが洗い流されるように消える。
「行くぞ!」
剣と魔法の交響が、戦場に鳴り響く。
刃は魔法を伴い、魔法は刃を守る――接近戦でも、魔法の支えがある。
錯綜する動きの中で、仲間たちは互いの位置を確認し、息を合わせて攻撃を重ねる。
ヴァルセリオは微かに眉を寄せ、しかしその目には冷静が保たれている。
経験と技術で対処されることは予想していた、だからこそ連携でそれを上回る。
戦場はもはや力だけでは裁けない。
知恵と信念、技術がせめぎ合う渦だった。
剣の一振り一振りに魔法を組み込み、仲間の剣や魔法と連動させる。
互いに補完し合うことで余裕が生まれて、ヴァルセリオの動きがよく見える。
この瞬間、アレンは確かに手応えを感じていた――押されながらも押し返せる、仲間を信じる力がそこにあった。
瘴気がさらに渦を巻き、マグナ・オルビスが黒い稲妻めいた瘴気を放つ。
ヴァルセリオの瞳に、ほんのわずかな動揺が見える。
ヴァルセリオの掌から、マグナ・オルビスの力が奔流となり戦場を覆い尽くす――だが、アレンたちはその奔流に負けはしなかった。
それぞれに放たれた魔法を避けつつ、確実に距離を詰めていく。
そしてとうとう、アレンの一撃が届いた。
アレンの一撃が触れた瞬間、マグナ・オルビスが悲鳴のような金属音を上げ、音波の奔流が空気を裂き、戦場全体を震わせた。
アレンの耳に激痛が走り、ぐらりと目眩がする。
咄嗟に距離を取り、膝をついた。




