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竜が見た夢  作者: 無名の記録者
第9章 託された灯火
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第2話 錯綜する信念

 山の中腹、開けた場所に踏み込んだ瞬間、アレンたちは瘴気の奔流の中に立つ影を見た。

 黒い外套に身を包んだ男――ヴァルセリオ。

 彼は振り返りもせず、ただ空を仰ぎ、竜の気配を待ち構えているようだった。


「ヴァルセリオ!」


 アレンの叫びに、男はゆるりと顔を向ける。


「……来たか。石ころの群れが」


 それは嘲りか、あるいは淡々とした観察か。感情の色を持たない声音だった。


 アレンは一歩、前へ踏み出す。

 その瞳は揺れている。それでも、そこに宿る意志はもう揺るがなかった。


「竜を討てば、すべては終わる!この大地を覆う瘴気も、争いも――」


 ヴァルセリオの唇がわずかに歪んだ。


「終わる?違います。竜こそが始まりです。世界は竜によって産声をあげ、竜によって循環する。討つ?貴方たちは流れに逆らうつもりですか」


 二人の声がぶつかり合う。

 だがその軌跡は交差するようでいて、決して交わらない。


「何故理解できないのか…救われるというのに、何故私たちの声が届かないのです?」


 胸の奥で怒りと絶望が互いに押し合い、言葉にならぬ苛立ちが渦巻く。

 アレンは迷いを振り切るように拳を握り、声を震わせながら憤りをぶつけた。


「そもそも、その目的のために、人々を傷つけるからだろう!」

「世界を救うためには、踏み越えねばならぬものもある。――小さな痛みで立ち止まっていては、誰も救えない」


 ヴァルセリオの返答は冷酷そのものだった。


「目の前の命も救えないのに、世界を救えると思うか!」

「綺麗事だ!些末なことだと、言ったはずです」

「その小さなものを見捨てた先に、正義があると思っているのか!」

「正義?笑わせる。祈りや浄化では何も救えない!見せかけの正義など、ない方がマシだ!なぜわからない!?」


 声を荒げながらも、その響きは熱狂ではなく、ただ理を突きつける冷徹さだった。


「わかるわけないだろう!」


 アレンは叫ぶ。


「救済を掲げ、その実、人を傷つける――そんな行いを、理解できるわけないだろ!」


 その言葉に、ヴァルセリオの目が細められる。


「貴方たちも、私の信徒を害した」


 アレンは一瞬言葉を失った。

 その横で、ジークが思わず声を上げかけ――しかし、それより早くフィオナの声が響く。


「望んで刃を向けた者はいない!あなたがそうせざるを得ない状況を作ったのでしょう!」


 短い沈黙が落ちる。

 ヴァルセリオは深く息を吐き、静かに告げた。


「本当に……理解し合えないのですね」


 アレンの瞳もまた、迷いなく彼を射抜く。


「同感だ。平和が訪れるなら、価値もある。けれど、小さなものを見捨てて手に入れたそれは、偽りだ」


 二人の視線が交わる。そこに和解はなく、ただ決裂だけが刻まれた。


「ならば証明してみせろ。己の剣で、その正しさを」


 瘴気が渦を巻き、戦場が一気に息を吹き返す。

 ここから先は――言葉ではなく刃で語るしかない。

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