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竜が見た夢  作者: 無名の記録者
第8章 決戦前夜
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第6話 戦場の深淵へ

 アレンたちが一斉に踏み込み、剣閃と魔法が奔流のようにヴァルセリオへと襲いかかった。


 大地を割るほどの大剣の一撃、炎をまとった刃の閃き、祈りの光が編み出す浄化の波動――。


 それらが一斉に叩き込まれる瞬間、ヴァルセリオはただ静かに手を掲げた。

 黒炎が渦を巻き、瘴気の障壁が展開する。


 打ち寄せる全てを受け流す様は、まるで舞い踊るように滑らかで、そこには焦りの影すらない。

 冷静な眼差しは敵を捉えつつ、どこか遠くの景色を見つめていた。


 ダリオスの大剣が叩きつけられる。

 筋肉が軋みを上げ、巨体をも押し潰す力が宿る。


 アレンの炎剣が閃き、赤熱した刃が空を切り裂く。

 フィオナの祈りは瘴気を淡く照らし、触れるたびに闇を霧散させた。


 連撃は苛烈で、少しの油断も許さぬものだった。


 だが、次々に反撃される。

 肩に重い衝撃を受け、息が詰まる。

 筋肉は痛みで悲鳴を上げ、剣を手放しそうになる。


 ヴァルセリオの術はアレンたちの想定を超えていた。

 ジークとイゼリア、ナッシュは、彼が繰り出す魔法の奔流に翻弄される。

 純粋な属性魔法ではない、どれも初めて目にする理不尽なまでに精緻な漆黒の魔法。

 剣を振りかざすも届かず、魔力を解放するも相殺される。


 対魔法戦闘に慣れぬ彼らは防戦一方に追い込まれ、それでも守り切れずその身に傷を増やしていく。

 かろうじて援護に回るという有様。

 仲間たちの顔に、焦燥が浮かぶ。


 アレンは額に汗が滲み、胸の奥で鼓動が跳ねるのを感じた。

 刹那、呼吸を整えながらも、腕や脚が重く、動きが鈍くなる。

 手が微かに震え、集中を保つのも一苦労――これが戦場かと、心底(しんそこ)で痛感した。


「……なるほど」


 ヴァルセリオは小さく呟き、唇にわずかな笑みを浮かべる。

 その表情には、敵を圧倒する者の傲慢さではなく、歓喜があった。


「やはり強い。貴方が救済の環に組してくれれば、どれほど……」


 ダリオスを見据えるヴァルセリオの声音には熱が宿り、戦いのさなかでさえ心からの賞賛が響いた。


「…断る……!」


 ダリオスが断言する。


 ダリオス以外は、塵芥(ちりあくた)と言わんばかりのヴァルセリオ。

 アレンは――悔しさを噛み殺し、切りかかる。


 光と闇が激突する。

 アレンの炎剣と、ヴァルセリオの黒炎。

 フィオナの祈りが闇を払い、しかし直後に瘴気が押し寄せて飲み込む。


 轟音が大地を揺らし、戦場の一角は灼熱と瘴気の奔流に変わっていた。


 アレンたちは互いに声を掛け合い、決死の連携で攻め立てる。


 剣が閃き、魔法が爆ぜ、光が闇を裂き、闇が光を呑む。


 必死の攻防の中でなお、ヴァルセリオは感嘆の声を漏らす。


 アレンは息を荒げ、肩で呼吸を整える。

 荒い呼吸のたびに、口内に血の味が広がった。

 腕や脚は力が入りすぎて痛みが走り、疲労で体が重い。


 それでも、目の前のヴァルセリオの瞳に映る歓喜と不安の混在を、アレンは確かに感じていた――理性がわずかに滑りかけているのがわかる。


 ――しかし。

 滑りかけていたものが何かに触れたかのように一瞬で引き戻される。


 次の瞬間、ガチリとはまる音が聞こえた。

 ヴァルセリオの瞳に広がるのは、確信めいた落胆だった。


「……そうですか」


 戦場の轟音の中で、彼の声は驚くほど静かに響いた。


「ならば、やはり現実を見せるしかあるまい」


 淡々とした口調の奥には、わずかな寂しさが滲んでいた。


 戦いはなお続く。

 光と闇がぶつかり合い、地鳴りが世界を震わせる。


 そのさなか、アレンはふと違和を覚えた。

 ヴァルセリオの眼差しが、敵を屠ろうとする激情からは遠い。

 どこか諦めを孕み、けれど揺るぎない確信を宿し、世界の奥を見据えている――そんな眼だった。


 ヴァルセリオはアレンたちを見ていない。


 アレンの胸を冷たい予感がよぎる。


 ヴァルセリオの真意は、光盟を滅ぼすことではない。

 もっと大きな、何か。

 そして予想もつかぬ力――世界を覆すほどのもの。

 彼の関心はそこへ向いている気がした。

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