第4話 闇をまとう声
カルドニア草原を震わせる剣戟の響きのただ中で、アレンたちは光盟の戦士たちの中央にあって奮戦していた。
大剣を振るうダリオスと炎剣を振るうアレンの一撃が瘴気魔獣を薙ぎ払い、フィオナの祈りの光が仲間を浄める。
ジークとイゼリア、ナッシュは信徒を次々に戦闘不能にしていく。
前線の戦士たちはその姿に勇気づけられ、声を張り上げて応戦した。
――このまま押し返せるかもしれない。
一瞬、そう思わせるほどに戦場の士気は高まっていた。
だが、その時だった。
空気が揺らぎ、黒き環から瘴気が収束していく。
渦を巻く闇が人の形を成し、やがて漆黒のローブを翻す影が草原に現れた。
ヴァルセリオ。
彼はまだ地を踏んでいない。
ただ宙に漂うだけで、周囲の空気を圧し潰すように支配していた。
その降臨の瞬間だけで、光盟の戦士たちは直感する。――次元が違う。
「竜こそが救済なのです」
低く響く声が、戦場を貫いた。
「人の力では、この世界を救うことはできません。絶望は増すばかり……ですが、偉大なる竜の力によって、貴方たちは解き放たれるのです」
その言葉に救済の環の信徒たちが一斉に呼応する。
「竜の御名に栄光あれ!」
「栄光あれ!」
声はさらに高まり、彼らの目には恍惚とした光が宿る。
一方で光盟の戦士たちは言葉を失った。
胸の奥で、ほんの一瞬でも迷いが生まれる。
自分たちの戦いは本当に正しいのか――その疑念が、足を鈍らせた。
ヴァルセリオは口角を歪め、黒き環を掲げる。
詠唱は速かった。否、速すぎた。
言葉が紡がれたと思えば、次の瞬間には術式が完成している。
瘴気を孕む黒炎が大地を焼き、悲鳴が上がる。
黒嵐が渦を巻き、戦士をまとめて吹き飛ばす。
そして黒雷が地を裂き、衝撃とともに血と土を跳ね上げた。
「ぐあああっ!」
「よ、避けろ――!」
光盟の戦士たちの叫びが混乱を広げていく。
ヴァルセリオの魔法は単なる破壊ではなかった。
瘴気に触れた者は一瞬でその身を毒され、立っているだけで精一杯になる。
さらにヴァルセリオは両手を広げ、闇を指揮するかのように声を放った。
瘴気魔獣が次々と霧の中から姿を現す。
それは野生の群れではない。
まるで見えぬ糸で繋がれた操り人形のように、整然と陣を組んで進軍してくる。
「馬鹿な……瘴気魔獣が、軍勢のように……!」
救済の環の信徒たちがその隣を駆け、声を合わせて叫んだ。
「竜の御名に栄光あれ!」
人と魔獣とが完全に噛み合った突撃が、光盟の防陣を粉砕していく。
「隊列を立て直せ!踏みとどまれ!」
必死に叫ぶその声も、押し寄せる奔流の前にかき消された。
アレンも必死に剣を振るい、仲間たちと背を預け合う。
だが、押される。
誰もが力の限り応戦していたが、戦場全体を見れば圧倒的に光盟が劣勢に立たされていた。
黒炎と瘴気の嵐に覆われた戦場で、ヴァルセリオの声だけが鮮明に響き渡る。
「竜の降臨は近い。抗う者たちよ、その血肉を捧げなさい。集う物たちよ――偉大なる時は目の前だ」
その宣告が、戦場をさらに深い絶望で覆った。




