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竜が見た夢  作者: 無名の記録者
第7章 裏切り
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幕間 ナッシュ

 十年近く前のことだった。


 黒い瘴気をまとった魔獣が、何の前触れもなく故郷の村を襲った。

 家は焼かれ、人々は蹂躙され――ただ一夜で、すべてが瓦礫に変わった。


 助けを求めた。だが聖導教会も、竜騎士団も現れなかった。

 祈りも剣も、存在しない。


 絶望と孤独の果てに、少年だったナッシュは生きるためだけに盗賊へと身を落とした。


 失望するのは、期待するからだ。

 だったら、最初から希望など抱かなければいい。


 *


 ナッシュは闇属性の魔法を得意とした。


 仲間の影に紛れ、敵を撹乱するその力は、盗賊団にとって重宝された。

 “俺の魔法が役に立つから居場所がある”――そう理解していた。

 それでも、少しは仲間だと錯覚していた。


 だが、衛兵に捕まった時。

 仲間たちは迷いなくナッシュを見捨てた。

 その上、裏切り者の烙印を押すように、手酷く罪を押し付けた。


 裏切られたと感じるのは、信じるからだ。

 だったら、最初から踏み込まなければいい。


 *


 心を失った果てに、ナッシュに手を差し伸べたのが“救済の環”だった。


 “竜こそが瘴気を退け、人を救う”――その教義は、かつて救われなかった少年の頃のナッシュの心を縛った。


 自分のような思いをする者を増やさぬために。

 絶望を繰り返させぬために。


 疑念はあった。

 やり方が正しいのか、本当に救いなのか。


 だが知り合いができ、同じ目的を掲げる仲間もできた。

 「もうここしか居場所がない」と思い込むことで、揺らぐ心を必死に押し隠していた。


 *


 野営の夜。

 焚き火を囲み、アレンたちと他愛ない会話が交わされる。

 ナッシュも、半ば無理やりそこに座らされていた。


 アレンが「新しい仲間だ」と言ったことを思い出す。

 まぶしいだけでなく、簡単にそう言えることが苛立たしくもある。


「お前、恥ずかしい奴だな」


 ナッシュが鼻で笑うと、アレンはむっとして返す。


「取り消さないからな」


 そのやり取りを聞き、ダリオスが冷静に釘を刺す。


「害がないならいい。だが刃を向ける相手を間違えるな」


 どうやら、全員が甘ちゃんというわけではないらしい。

 ナッシュが肩をすくめると、ジークが無邪気に笑う。


「アレンが仲間って言ったなら、もう仲間だ」


 真っ直ぐな信頼。

 ナッシュはそのまぶしさから、思わず目を逸らした。


 フィオナが小さく笑って問いかける。


「よろしくお願いします。……あ、私は食事担当ですが、何か好きなものや苦手なもの、あります?」


 不意に向けられた素朴な問いに、ナッシュは言葉を詰まらせる。


「いや…特に、ない」

「わかりました!また何かあったら、いつでも言ってくださいね」


 こちらもナッシュにとってはまぶしい。

 見ているのが辛かった。


 そしてイゼリア。

 彼女は元竜騎士団だという。


「竜騎士団だって万能じゃない」


 そう、わざと吹っかける。

 が彼女は真顔で答えた。


「それはそうだ。私たちもただの人間だ。手の届く範囲しか守れない。その狭い範囲すら守れないこともある。だからこそ元凶を断つのだ」


 真剣な答えに、ナッシュはかえって拍子抜けするしかなかった。

 ……それでも、焚き火の熱がいつもより少しだけ心地よく感じられた。

ナッシュはもう、きっと大丈夫。

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