第6話 余韻と決断
ヴァルセリオはアレンたちを見下ろす。
深紅の瞳を細め、ゆっくりと口を開いた。
「……貴方たちもまた、救済の途上にある。いずれ理解するでしょう」
穏やかな口調。
だがその端に浮かぶ笑みは狂気そのものだった。
「竜こそ、真の救いだと――」
そして、黒い空に滲むように消えた。
*
儀式の阻止には成功した。
だが、荒れ果てた石畳はひび割れ、瓦礫の隙間からは今も黒い煙が立ちのぼる。
かつては人々が日常を過ごした場所。
その面影は跡形もなく、ただ風だけが虚しく吹き抜けていた。
地に落ち砕けた円座の近くで、ナッシュは汗にまみれ、瓦礫に座って空を仰いでいた。
その顔に浮かんでいるのは怒りでも悔しさでもなく、ただひどく疲れた影だった。
「……俺は、もうあんな奴の下では戦えない」
かすれた声は、戦場の静寂に溶けていった。
その響きは弱々しいものではなかった。
むしろ、自らの過去を断ち切ろうとする意思の固さが、そこには滲んでいた。
沈黙。
風が一度、二人の間を抜けていった。
アレンは一歩踏み出す。
その瞳で真っ直ぐにナッシュを見据える。
「なら、一緒に戦おう。俺たちと」
短い言葉。
だがその声に、迷いはなかった。
ナッシュは顔を背ける。
唇をきつく結び、しばしの沈黙の後、低く吐き捨てるように言った。
「勘違いするな。……お前らの仲間になったわけじゃない」
その言葉に、アレンはわずかに目を細める。
突き放すような響きの奥に、少し拗ねたような響きを感じ取ったからだ。
目指すものが同じなら、それはもう仲間だ。
アレンはそう確信していた。
夕陽が沈みかけ、長い影が戦場に伸びる。
赤黒く染まった空の下で、影と影は重ならず、距離を保ったままだった。
――それは、まだ交わらぬ心の象徴でもあった。
*
「ナッシュだ」
無表情でそう名乗るナッシュ。
その一言は、過去の名も肩書きも捨てたという意思表示のように響いた。
ジークが笑顔を浮かべ、アレンの首にガッと肘を回す。
その勢いのままナッシュに背を向けさせられ、ジークに引き寄せられ、強引に顔を寄せられた。
「アレン……?」
声が笑っていない。
イゼリアが眉をひそめる。
ダリオスも説明を求めるように距離を詰める。
フィオナは何も言わず、ただアレンをじっと見つめていた。
アレンは少し困ったように眉を寄せ――けれど真っ直ぐに答えた。
「――新しい仲間だ」
その声は静かだったが、強い芯を持っていた。
皆がそろって深いため息をつく。
それは呆れとも、諦めともつかない響きだったが、同時にどこか安堵の色も滲んでいた。
瓦礫からは、未だに黒い煙がくすぶるように立ちのぼっている。
焦げた匂いと瘴気の残滓が混じり合い、胸の奥に重く沈んでいく。
――儀式は止めた。
だが、大地に刻まれた爪痕は消えない。
この世界が救われたわけでもない。
それでも。
歩みを止めることはできない。




