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竜が見た夢  作者: 無名の記録者
第7章 裏切り
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第6話 余韻と決断

 ヴァルセリオはアレンたちを見下ろす。

 深紅の瞳を細め、ゆっくりと口を開いた。


「……貴方(あなた)たちもまた、救済の途上にある。いずれ理解するでしょう」


 穏やかな口調。

 だがその端に浮かぶ笑みは狂気そのものだった。


「竜こそ、真の救いだと――」


 そして、黒い空に滲むように消えた。


 *


 儀式の阻止には成功した。

 だが、荒れ果てた石畳はひび割れ、瓦礫の隙間からは今も黒い煙が立ちのぼる。


 かつては人々が日常を過ごした場所。

 その面影は跡形もなく、ただ風だけが虚しく吹き抜けていた。


 地に落ち砕けた円座の近くで、ナッシュは汗にまみれ、瓦礫に座って空を仰いでいた。

 その顔に浮かんでいるのは怒りでも悔しさでもなく、ただひどく疲れた影だった。


「……俺は、もうあんな奴の下では戦えない」


 かすれた声は、戦場の静寂に溶けていった。

 その響きは弱々しいものではなかった。

 むしろ、自らの過去を断ち切ろうとする意思の固さが、そこには滲んでいた。


 沈黙。

 風が一度、二人の間を抜けていった。


 アレンは一歩踏み出す。

 その瞳で真っ直ぐにナッシュを見据える。


「なら、一緒に戦おう。俺たちと」


 短い言葉。

 だがその声に、迷いはなかった。


 ナッシュは顔を背ける。

 唇をきつく結び、しばしの沈黙の後、低く吐き捨てるように言った。


「勘違いするな。……お前らの仲間になったわけじゃない」


 その言葉に、アレンはわずかに目を細める。

 突き放すような響きの奥に、少し拗ねたような響きを感じ取ったからだ。


 目指すものが同じなら、それはもう仲間だ。

 アレンはそう確信していた。


 夕陽が沈みかけ、長い影が戦場に伸びる。

 赤黒く染まった空の下で、影と影は重ならず、距離を保ったままだった。

 ――それは、まだ交わらぬ心の象徴でもあった。


 *


「ナッシュだ」


 無表情でそう名乗るナッシュ。

 その一言は、過去の名も肩書きも捨てたという意思表示のように響いた。


 ジークが笑顔を浮かべ、アレンの首にガッと肘を回す。

 その勢いのままナッシュに背を向けさせられ、ジークに引き寄せられ、強引に顔を寄せられた。


「アレン……?」


 声が笑っていない。

 イゼリアが眉をひそめる。

 ダリオスも説明を求めるように距離を詰める。

 フィオナは何も言わず、ただアレンをじっと見つめていた。


 アレンは少し困ったように眉を寄せ――けれど真っ直ぐに答えた。


「――新しい仲間だ」


 その声は静かだったが、強い芯を持っていた。


 皆がそろって深いため息をつく。

 それは呆れとも、諦めともつかない響きだったが、同時にどこか安堵の色も滲んでいた。


 瓦礫からは、未だに黒い煙がくすぶるように立ちのぼっている。

 焦げた匂いと瘴気の残滓が混じり合い、胸の奥に重く沈んでいく。


 ――儀式は止めた。

 だが、大地に刻まれた爪痕は消えない。

 この世界が救われたわけでもない。


 それでも。

 歩みを止めることはできない。

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