第5話 共闘
「アレン、俺とジークはこのまま避難を支持する。ここはお前たちで……いけるな?」
信頼を宿したダリオスの瞳に、アレンは強く頷き返す。
イゼリアとフィオナは、戦場に残る決意を固めていた。
「儀式を台無しにしてやる!」
ナッシュが飛び出す。
「ナッシュ……!?落ち着け!」
アレンが叫ぶが、その声は届かない。
黒い瘴気が渦巻き、石畳を押し上げるように裂け目が広がる。
そこから現れたのは、翼を持つ獣――かつての飛竜を思わせる姿。
だがその鱗は爛れ、片目は潰れ、口からは黒い瘴気を吐き出していた。
「……飛竜……?」
イゼリアの声が震える。
しかしそれは瘴気魔獣、ベルハイムで見た飛竜とはまるで別物だった。
「気を取られるな!来るぞ!」
アレンの叫びと同時に、瘴気魔獣が咆哮をあげ、仲間へと突進してきた。
刹那、ナッシュが受け止める。
激情に駆られているように見えた――だがその剣筋は驚くほど鋭く、無駄がなかった。
魔獣の爪をかわし、逆手に構えた短剣で後ろ脚を斬り裂く。
わずかに体勢が崩れた隙に、アレンが横合いから斬り込む。
アレンは息を呑む。
叫び散らしていた時とは別人のような、研ぎ澄まされた動き。
ナッシュは暴走しているのではない――冷静に戦場を読み切っていた。
「下がれ!」
ナッシュの短く鋭い声が飛ぶ。
アレンが飛び退いた、次の瞬間。
ナッシュの刃がアレンに飛びかかろうとしていた瘴気魔獣を断ち切った。
血の代わりに黒い霧が飛び散り、その中で魔獣の赤い瞳が爛々と燃える。
「……っ!」
アレンはナッシュと背を預ける形で立ち直り、振り返る。
そこにいたのは、まるで長年連れ添った仲間のように自然な呼吸で動くナッシュだった。
二人の背中が触れそうなほど近づき、同時に剣を構える。
迫る敵の気配を察知し、迷いなく左右へ跳んだ。
――一瞬だけ、呼吸が完全に重なった。
その間も、フィオナとイゼリアは並んで立っていた。
飛竜を模した瘴気魔獣に動揺するイゼリアの前に、フィオナが進み出る。
「大丈夫。私が光で裂く。イゼリアは――守って」
「…っ、任せろ!」
イゼリアが槍を構え、フィオナの前に立つ。
彼女の竜騎士としての矜持が、その身を支えていた。
次の瞬間、フィオナの杖が白光を放つ。
「――光よ、道を拓け!」
フィオナの祈りとともに、杖から奔流のような光が放たれた。
白光が黒い瘴気を切り裂き、仲間たちが駆け抜けるための道を照らし出す。
アレンとナッシュは迷わず踏み出し――同時に跳んだ。
浮かぶ石を伝い、疾風のように駆け上がった勢いで、空中に浮かぶ儀式用の円座へと飛び乗る。
アレンの剣が閃き、立ち塞がる信徒を次々と吹き飛ばす。
その横で、ナッシュの短剣が禍々しい欠片を正確に叩き斬った。
グランゼリアで見たものと同じだが、少しだけ大きく見えた。
鋭い音を立てて欠片が砕け散り、瘴気の奔流が一気にしぼんでいく。
轟音とともに衝撃が走り、近くの者たちは体を吹き飛ばされた。
荒れ狂っていた黒霧は煙のように散り、戦場に一瞬の静寂が訪れた。
だが、終わりではなかった。
高空に浮かぶ黒衣の男が、深紅の瞳で静かに戦場を見下ろしている。
アレンとナッシュは痛みを堪えて立ち上がり、同時に顔を上げた。
隣に並んだまま、互いに言葉は交わさずとも、視線の先は同じだった。
二人の眼差しが鋭く一点を射抜く。
――その標的はただひとり。
空に佇み、なお余裕を崩さぬ男、ヴァルセリオ。
深紅の瞳が、アレンたちの決意すらも試すかのように静かに燃えていた。




