表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜が見た夢  作者: 無名の記録者
第7章 裏切り
43/82

第3話 儀式と惨劇

 アレンは素早く仲間を振り返った。

 地面を這う瘴気が血管のように赤黒く脈打ち、石畳を割りながら広がっていく。

 空気が焼けるように震え、黒雲が頭上で渦を巻いた。


「逃げろ!」


 咄嗟に叫ぶ。

 大地そのものが崩れ落ちようとしていた。

 仲間たちは振り返る間もなく身を翻し、それぞれの武器を抱えたまま走り出す。


 アレンも駆け出そうとした瞬間――異変に気づいた。


 ナッシュが動かない。


「行くぞ!」


 伸ばした手で、硬直したナッシュの腕を強引に掴む。

 抵抗はなかった。

 引かれるままに、彼は足を動かし始める。


 崩壊する遺跡の向こうに、浮島のように残された石畳が見えた。

 その上では黒衣の者たちが輪を描いて並び、手を掲げて呪文を唱えている。


 中央に立つ男は、他の者よりも明らかに華美な衣を纏っていた。

 赤い瞳がちらりとこちらを捉えた気がしたが、アレンは振り切るように前を向いた。


「なあ、これ……あの村、やばいんじゃねえの!?」


 走りながらジークが叫ぶ。


「避難は万全だ。環が手配済みだ……!」


 息を荒げながらナッシュが答える。

 しかしアレンは即座に声をかぶせた。


「俺たちはこの先の村から来た!避難の素振りはなかった!」


「――え……?」


 ナッシュの瞳が揺れる。顔から血の気が引いていく。

 その反応は、彼が本気で“避難済み”と信じていたことを示していた。


 やがて視界の先に、村が広がった。

 人の姿がある。


 子どもを背に庇いながら走る者、揺れによろめき転倒する者。

 彼らは地割れの轟音に怯え、悲鳴をあげて逃げ惑っていた。


「……避難は終わったはずだ!どうしてまだ人が――!」


 震える声でそう叫ぶと同時に、ナッシュはアレンの手を振り払った。

 そして、無我夢中で前へ走り出した。


「ナッシュ!待て!」


 アレンの制止は届かない。


 瘴気がうずき、黒い塊が地面から噴き出した。

 瞬く間に形を取り、異形の魔獣へと変貌する。

 爪が土を抉り、涎を垂らす口が不気味に開く。


「いや……!」


 尻餅をついた子供が涙に濡れた瞳で魔獣を見上げる。

 母親が必死に駆け寄ろうとするが、瓦礫がその行く手を阻んだ。


 ナッシュが、叫び声をあげ、全身で駆けた。

 剣も構えず、ただ、子供へと手を伸ばす。


 その姿を見て、アレンは理解した。

 ――彼は本当に、人を救いたいと願っている。


「やめろおおおおおおお!!」


 アレンもすぐさま状況を悟り、力の限り足を蹴った。

 しかし――間に合わない。


「助けて――!」


 子供のか細い叫びが空気を切り裂く。

 次の瞬間、魔獣の顎が閉じた。


 バクン。


 嫌に生々しい咀嚼音が響き渡る。

 世界から色が抜け落ちたように、音が途絶えた。


「……あ……」


 ナッシュの喉が掠れ、膝が折れる。

 子供の姿は消え、赤黒い瘴気魔獣だけがこちらを嘲笑うように首を傾げた。


 ナッシュの伸ばした手が震えながら何度も空を掴む。


「ああああああああああああああ!!!」


 空気を裂くような絶叫が、村を震わせた。

 荒い息と、魔獣が咀嚼する不快な音だけが、しばらくの間世界を支配していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ