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竜が見た夢  作者: 無名の記録者
第7章 裏切り
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第2話 再会

 森を抜けた先に、崩れかけた石造りの遺跡が口を開けていた。


 苔に覆われた石段、砕けた柱。

 その隙間からは、瘴気のもやがじわじわと漏れ出している。

 空の黒雲と相まって、まるで世界そのものが沈んでいくような光景だった。


 耳にまとわりつくようなざわめきがあった。

 声とも風ともつかない音が、瘴気に混じって響いてくる。

 鼻先には鉄の錆びた匂いが漂い、喉がひりつくように痛む。


「……ここか」


 アレンは剣の柄を握り直す。

 胸の奥にざらついた不安が広がる。


 イゼリアが険しい目で遺跡を見上げ、低く吐き捨てる。


「救済の環……これほど露骨に瘴気を撒くとは」


 フィオナは祈るように胸に手を当て、唇を噛んでいた。


「どうして、こんなことができるの?」


 ダリオスは静かに視線を周囲の森へ向ける。

 わずかな枝の揺れさえ見逃さぬ鋭さがあった。


 ジークは口を歪め、舌打ちを一つ落とした。


「遺跡ごと瘴気の巣にするとは……まったく、ふざけんなよ!」


 その時――。


「……!」


 アレンは足を止めた。


 遺跡の影に、ひとつの人影が立っていた。

 苔むした石柱の陰からゆっくりと姿を現す。

 細身の体。癖のある立ち姿。

 見覚えのある、忘れるはずのない輪郭。


「ナッシュ……!」


 名を呼ぶと、空気がぴんと張り詰める。


 仲間たちの息遣いすら聞こえるほどに、静寂が濃くなった。

 イゼリアは槍を構え、フィオナは息を詰め、ジークは眉を吊り上げて半歩前に出る。


 ナッシュがゆっくりと歩み出た。

 月明かりの差さぬ森の中、その顔は陰に覆われていた。

 わずかに覗く瞳の光は、かつて刃を交えた時のように鋭い。

 だが――奥にあるのは迷いと焦燥。


「……来るな」


 低く、押し殺した声。


「俺の道を邪魔するな」


 そう言い放ちながらも、短剣を握る手は小さく震えていた。

 ジークが鼻で笑う。


「その顔……救済の環の犬にしちゃ、迷い犬みたいだぜ」

「黙れッ!」


 怒鳴り返した声は鋭かったが、どこか裏返り、不安定に響いた。


 イゼリアが一歩踏み出しかけたが、アレンが手で制した。

 ――本気で敵として立ちはだかるには、あまりにも脆い声だった。


「瘴気から人を救いたい。その思いは同じじゃないのか?」


 アレンは問いかける。

 その言葉に、ナッシュの瞳が一瞬大きく揺れた。

 だが次の瞬間、唇を固く結び、視線を逸らす。


 唇が何度か動いた。声にならない声が、暗がりの中で消えていく。

 ナッシュは、必死に平静を装おうとしているように見えた。


「……俺には…環しか、ねえんだ……」


 途切れた言葉は、居場所を必死に言い訳するかのように震えていた。

 だが続きは紡げず、沈黙が落ちた。


 フィオナが続けて声をかけようとした時――小さな振動が、石畳に走る。


 轟音が遺跡を揺るがした。

 大地そのものが呻くように鳴り、石壁が悲鳴を上げるように崩れ落ちる。

 苔むした石の破片が宙を舞い、土煙が視界を覆った。


 足元の石畳が割れ、亀裂が走る。

 地鳴りの振動で仲間たちの体がぐらりと揺れ、イゼリアが槍を突き立てて体を支え、フィオナが悲鳴を上げてよろめいた。


 そこから吹き上がる風は、冷たさと共に砂と灰を巻き上げ、耳を打つ轟音と肺をえぐるような圧が迫る。

 風に巻かれた砂が顔に当たり、痛みと匂いで呼吸が乱れる。


「っ……!」


 砕けた石が地を裂き、土煙と共に落下する。

 その周りの森も、木々ごと地面の奥へと吸い込まれるように沈んでいった。


 アレンたちは目を見張った。

 ナッシュの迷いを断ち切る暇もなく、次なる惨劇が牙を剥いていた。

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