幕間 酔いの余韻
戦勝の宴もとうに終わり、街の大酒場には静けさが戻っていた。
転がる酒瓶と眠りこけた酔客の間を抜け、わずかな灯火の下で残った者たちが後片付けをしている。
その隅、木の柱に背を預けていたイゼリアが、ちらと横目でジークを見た。
まだ杯を握っていたが、彼は一口も飲んでいない。
「……飲みすぎてないか?」
不意にかけた声に、ジークは眉を上げた。
「お前に心配されるほど弱くない」
「……ならいい」
イゼリアはそっぽを向いた。
言った直後、自分の言葉に気づいて顔を赤くする。
「な、なんでもない!」
ジークは返さなかった。ただ視線を盃に落とす。
その沈黙が、彼の疲れや迷いを浮かび上がらせる。
「……そういや怪我してただろ」
イゼリアの顔が、驚きに固まる。
「なぜ知って…いやお前には関係な…」
唐突にジークが口を開く。
「見せろ」
「自分でできる!」
イゼリアは思わず反発する。
「下手くそな包帯で戦場に出られても困る」
ジークは低く言い、躊躇なくイゼリアの腕を取った。
ゆっくり袖を持ち上げると、案の定不器用に布が巻き付けてある。
布をほどき、丁寧に巻き直していく。
その手つきは驚くほど落ち着いていて、普段の刺々しい態度とはまるで別人のようだった。
「……勝手にしろ」
イゼリアは目を逸らしたまま、唇をぎゅっと結ぶ。
耳まで真っ赤に染まっているのを隠そうとするほど、余計にぎこちなくなる。
ジークは表情を変えず、黙って布を巻いていく。
*
少し離れた席から、それを見ていたフィオナは、瞳をきらきらと輝かせていた。
「わぁ……!」
小さな声をもらし、両手を胸の前でぎゅっと握った。
「……君なあ、覗くなよ」
隣のアレンが呆れ声を漏らす。
「だって、こういうの素敵じゃない!」
フィオナは目を輝かせたまま、アレンを見上げた。
「でもアレンだって、気になるでしょ?」
「は?」
「ジークのこと、大好きだもんね!」
「なっ……!」
アレンの顔に朱が走り、耳まで赤くなる。
フィオナは大喜びで笑い、アレンは額を押さえるとため息をついた。
「……ったく、なんで俺まで巻き込まれるんだよ」
誰に言うでもなくこぼした弱音は、酔客の寝息に紛れて消えていった。
残されたのは、静かに続く夜と、微かに揺れるランプの光だけ。
ジークは、少し前にフィオナに投げかけたきつい言葉を、密かに心の奥で反芻していました。
しかしフィオナは、その言葉の正しさを理解しており、まったく気にしていません。むしろ素直に受け止めています。
一方イゼリアは、戦いの後、人目を避けて自分で傷を手当てしていました。
不器用で手際も悪く、もたついていましたが、ジークはそれに気づいていました。
アレンは、フィオナが落ち込んでいるのではないかと心配して近くにいましたが、結局その本人に捕まってしまいました。




