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竜が見た夢  作者: 無名の記録者
第6章 揺らぐ信念
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第4話 前線の危機

 グランゼリアは一瞬にして混乱に包まれた。


 人々が悲鳴を上げて逃げ惑い、衛兵たちが松明を掲げ右往左往する。

 鐘楼からはなお警鐘が鳴り響き、夜空を裂く音が胸を打つ。


「……確か、この街には聖導教会の聖導士が駐在していて、常に瘴気を祓っていると聞いた」


 ダリオスが低く言い、記憶をたぐるように眉をひそめた。


「魔獣の襲撃自体は時々あるらしいが、その程度なら衛兵でも追い返せるって話だったな」


 ジークが肩をすくめる。


「私も昼間に見て回ったけれど、守りは万全に見えた。少なくとも前に訪れたときと変わりはなかった」


 イゼリアが竜槍の柄を握りながら言い切る。


 アレンとフィオナは顔を見合わせ、わずかに胸が痛んだ。

 ――情報収集のために別行動したのに、何の情報も得られなかった。


 だが考える間もなく、アレンは気持ちを切り替えた。

 今は立ち止まっている場合ではない。


 アレンたちは人の集まる城壁に駆け上がった。

 夜気(やき)に濁る視界の先、街の外にはもやのような瘴気が渦巻き、その中からうねる影がいくつも姿を現す。

 瘴気魔獣の群れだ。


 地鳴りのような咆哮が響き、城壁が微かに震えた。


「う、うわ……!」


 若い衛兵が腰を抜かし、剣を取り落とす。

 普段は聖導教会に守られている街。襲撃に慣れていないことが、かえって衛兵たちの動きを縛っていた。


「誰かが立たねば、この防衛線は崩れる」


 ダリオスの声が静かに響く。

 アレンは頷き、剣を抜いた。


「前線は……俺たちが支えるしかない!」


 仲間たちは一斉に武器を構え、城壁から飛び降りた。


「行けるか?」


 フィオナに問うと、迷いのない頷きが返ってくる。


 アレンはフィオナを抱えると、仲間を追って飛び降りる。


 浮遊の瞬間。

 一瞬、フィオナが息を飲み、アレンの首元にぎゅっと力を込めた。

 風魔法を利用して、衝撃を和らげ、着地する。

 そしてフィオナを下ろす。


「後方支援、頼む!」

「うん…任せて!」


 瘴気魔獣に門まで辿り着かせてはいけない。

 その結論に至ったのは、アレンたちだけではなかった。


 次々に武器を持った旅人や衛兵が合流する。

 「仲間に入れてくれ!」「こっちは任せろ!」と声が飛び交い、肩を並べる見知らぬ者同士の輪が自然に広がる。


 初めての、名も知らぬ者たちとの共闘だった。

 怒涛の勢いで押し寄せる魔獣に対抗するには、もう協力するしかなかった。


 ダリオスが巨体を盾にして最前に立ち、迫る魔獣を弾き返す。


 続いてイゼリアの竜槍が閃き、雷鳴のごとき一撃が瘴気を裂く。

 その瞬間、心臓がどくりと脈打った。


 やはり、あの槍、どこかで?

 ――だが、“答え”はまだ掴めない。

 ただ、何かを求めるように心が震えていた。


「押せぇ!まだ押し返せる!」

「ぐっ……助かった!」


 背後からは衛兵や旅人の叫びが飛び、アレンたちの背中を押す。

 背中を預け合うことで、戦場はかろうじて均衡を保っていた。


「下がって!そのままじゃ瘴気に呑まれる!」


 フィオナが叫び、倒れた衛兵に駆け寄る。

 彼女の手が光を放ち、衛兵の顔に刻まれた苦痛が薄れていく。

 瘴気に侵された者は次々と救われ、また武器を持って立ち上がった。


 ――けれど。


「はぁ……まだ……止まらない……」


 フィオナは青ざめた顔で呟く。


 癒しは人を救う。しかし次々と現れる魔獣、尽きぬ瘴気の源を絶つことはできない。


「人は救える。けど……戦いを終わらせる力には届かない……」


 その瞳に、悔しさが宿った。


 戦いのさなか、ジークがふいにアレンの肩を叩いた。


「アレン、ナッシュの示威の件で気になることがある!後は任せた、俺は街に戻る!」


「なにっ――!」


 驚くイゼリアが振り返る。

 アレンの返事も待たず走り出したジーク。

 誰もが一瞬、彼が逃げ出したと思ったのだろう。


「逃げる気か!?この状況で――」


 旅人のひとりが叫ぶ。怒りと絶望が混じった声だった。


 だがアレンは短く首を振る。


「ジークは……逃げる奴じゃない」


 その言葉に力を込め、アレンは再び剣を振るう。

 仲間を信じて戦う、それだけだった。


 *


 やがて、波のように押し寄せていた魔獣がさらに激しさを増した時――。


「待たせたな!」


 息を切らしたジークが駆け戻る。

 腕に抱えているのは、布袋。

 口を開くと、中から瘴気を帯びた禍々しい欠片が覗く。


 金属か、はたまた石か――ひび割れた小さな欠片だ。


「こいつを見つけた!瘴気の源だ!」

「ジーク!こっち!」


 フィオナが呼び、膝をつき、両手を欠片にかざす。

 詠唱、それを一部省略する。


「……ホーリーライト!」


 白光が弾け、欠片がキン――と鳴る。

 轟音と共に風が吹き荒れ、瘴気が一気に晴れる。


 魔獣たちの咆哮が途絶えた。


「今だ!押せぇ!」


 衛兵や旅人が叫び、アレンたちと共に総攻撃を仕掛ける。

 残された群れは勢いを失い、猛撃によって次々と塵と化した。


 ――そして。


 夜が明けるころには、すべての瘴気魔獣が消え去っていた。

 朝日が差し込む街を見渡し、アレンたちはようやく剣を下ろした。


 誰もが肩で息をしていた。

 静かな余韻を消し去るように、歓声が上がった。

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