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竜が見た夢  作者: 無名の記録者
第6章 揺らぐ信念
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第3話 揺れる刃

 遺跡の石室には、まだ重苦しい沈黙が漂っていた。


「……行こう」


 やがてダリオスが松明を振り、短く促した。


 一行は遺跡を後にした。外に出れば、夜気がひやりと頬を撫でる。

 昼の喧噪を失ったグランゼリアは、遠くの酒場から歌声が漏れる以外は静かだった。城壁の上では衛兵の松明が揺れ、時折鉄靴の響きが夜に混じる。


 その静けさを切り裂くように――不意に、アレンの背に冷たい気配が走った。

 同時に、ダリオスとイゼリアも反応して振り返る。


 闇の中から、灰色の瞳をした黒衣の男が現れた。

 門の前で見た一行の中にいた、あの若い男。


 アレンは咄嗟に剣へ手を伸ばす。


 男は短剣を握るが、刃はかすかに震え、灯りに揺れていた。

 短く握り直すと、ふっと自嘲するように笑う。


「……俺だって分かってる。あいつらの“救済”なんて、綺麗事だ。だが、人は救われるんだろ?」


 声がかすれ、言葉の端々も揺れていた。

 以前は“俺たち”と言っていたはずなのに、今は“あいつら”と口にしている。


 アレンは一歩踏み出そうとした。だが、男は鋭く距離を取り、短剣を突き出す。


「近づくな!」


 怯えと決意が交錯するその目は、刃よりも心の揺れを語っていた。


 沈黙の後、男は低く吐く。


「……俺はナッシュ。覚えておけ」

「ナッシュ……」


 アレンが名を繰り返す。


「次に会うときは――敵かもしれない」


 吐き捨てるような言葉を残し、踵を返す。

 だが闇へ消える直前、振り返らずに小さく付け加えた。


「……“環”の仕掛けに気づかなかったのか?あれは、ただの示威(しい)じゃない」


 そのまま影のように消えた。


 アレンは追おうとしたが、ダリオスが手を伸ばして制す。


「待て。罠かもしれん」


 アレンは剣を握る手に力を込める。


「……示威(しい)?」


 ダリオスが眉をひそめる。

 自分の力を誇示し、威圧すること――アレンははっとして、門前での出来事を思い出す。


「竜は人類を救った、人を守るために贄となった。人の罪を抱えて眠った……そう叫んでいた」


 その言葉にイゼリアが鼻で笑う。


「どれだけ良心的な解釈をすればそうなる!頭の中に花畑でもあるんじゃないか」


 冷たい声音の奥には、怒りとも嫌悪ともつかぬ苛立ちが滲んでいた。


「ちょっと言いすぎだろ」


 ジークが苦笑しつつも同意する。


「確かに……」


 ダリオスも低く続けた。


「安直な響きだな」

「……けど」


 アレンは言葉を飲み込む。

 違う、今はそんな話をしている場合じゃない。


「ナッシュが言っていた。あれは、ただの示威じゃないと。もしかしたら、あの瞬間……」


 胸のざわつきが波のように広がり、皆も息を止めてアレンの言葉に耳を澄ませた。


 ――その言葉を、けたたましい警鐘がかき消した。

 静まり返っていた夜の空気が震え、グランゼリア全体を揺さぶる。


「何事だ……!?」

「な、何……!?」


 皆、一斉に顔を上げ、胸の奥を掻き乱すような不吉な予感に息を呑んだ。

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