表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜が見た夢  作者: 無名の記録者
第6章 揺らぐ信念
35/82

第1話 教団との再会

 イゼリアの仕草には、まだ癒えぬ傷がにじんでいた。

 食事の席で、向かいに誰もいないのに――手元の皿を差し出す仕草をして。


「これ、おいしいな!食べるか――」


 言葉を口にしかけて、はっと手を下ろす。目が一瞬伏せられた。


 移動中には、次の街の名前を聞くと、肩を張って笑った。


「グランゼリアか!昔、父の遣いで訪れたが……飛竜で空を飛んで怒られたのはいい思い出、だな……」


 けれど、言葉の尻は寂しげに消えていく。

 その笑顔の端は、どこか遠くに揺れていた。


 アレンは正直、見ていられなかった。

 だが、かける言葉も、見つからなかった。


 *


 やがて視界に広がるのは、石造りの巨大都市――グランゼリア。


 高くそびえる城壁は陽を受けて白銀に光り、幾重にも重なる門の先には大通りがまっすぐに伸びていた。

 石畳は磨かれて艶やかに光り、人々の足取りで絶えずざわめいている。


 荷車を引く商人、巻物を抱えて議論する学者、白装束を翻す聖導士――商業も学術も信仰も、この街にはすべてがあった。

 都市そのものがひとつの国のように、堂々とした気配を放っている。


「すごい……」


 フィオナは目を見張った。


「こんなに瘴気を感じない街、はじめて」


 その瞳の輝きに、アレンは思わず笑みを漏らす。

 ここだけは、外の荒廃とは違う世界だ。


「これだけ大きな街なら、何らか情報があるだろう。手分けして探そう」


 ダリオスの指示のもと、それぞれ思い思いの方向へ歩いていく。


「フィオナ、行こう」


 アレンは不安そうにダリオスやジークの背を見るフィオナに声をかける。

 フィオナが嬉しそうに頷いた。


 探索を兼ねて歩き回るうち、二人は自然と並んでいた。

 市場の露店で焼き菓子の甘い匂いにフィオナが足を止め、「これ、美味しそう」と目を輝かせる。

 アレンは財布を開き、ひとつ購入すると、二つに分ける。


「師匠には、秘密な」


 フィオナが小さくうなずいて、人差し指を口元に添えて微笑む。


 二人で噴水広場に座って、焼き菓子をかじった。

 子供たちが水の冷たさに笑いながら手を濡らし、その飛沫に虹がかかる。


 束の間の時間――戦いを忘れ、普通の旅人として過ごす日常。

 こんな日が続けばいいのに、と。アレンは胸の奥でひそかに思った。


 だが、その安らぎは長くは続かない。

 門の近くで人々がざわめき始めた。フィオナと顔を見合わせて、門の方へ走る。


 黒衣の一団が、石畳を踏み鳴らしながら近づいてくる。

 その中心に、見知った顔があった。遺跡で刃を交えた、獣のような灰色の目の男。


「……あいつ」


 救済の環――あの狂信者たちが、街へと真っすぐ向かってくる。


 アレンは剣を抜き、行進を阻もうと立ちふさがった。


 顔を上げ、アレンを見た男の瞳が揺れる。


「……お前、あの時の…」


 その声は、かすかに迷いを帯びていた。

 だが、彼はすぐに顔を歪め、目をそらせる。


 黒衣の一団は広場の中央で立ち止まった。ざわめきが静まり、重苦しい沈黙が落ちる。

 幹部格の男が、広場に響く声で叫ぶ。


「竜は人類を救った!人を守るために、贄となったのだ!人の罪を抱えて眠ったのだ!」


 その言葉にアレンもフィオナも一瞬動きを止める。

 救った?贄?竜が……?理解できない。一体何を言っている?


 続けて、他の黒衣の男たちが叫ぶ。


「竜を救え!さすれば人も救われる!」


 フィオナの口から、小さな声が零れた。


「贄って……?」


 教団は暴れるでもなく、謎めいた言葉だけを残して去っていった。

 灰色の目の男が一度だけ振り返ったが、行列とともに遠ざかっていく。

 その足音が、広場に重く響き続けた。


 アレンもフィオナも、しばらく動けなかった。

 広場に残されたのは、戸惑う人々と、ざわつく街の空気だけ。


 アレンは剣を納め、短く息を吐いた。


「……何だったんだ、今のは」


 口に出しても、答えはどこにもなかった。

 フィオナもまた、教団の去った方角をじっと見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ