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竜が見た夢  作者: 無名の記録者
第5章 飛竜を駆る者
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幕間 イゼリア

 イゼリアは、竜騎士団の団長の一人娘だった。

 将来、父の後を継ぐ。それは幼いころから当然の未来だった。


「私、本当は人に指示を出したり、戦ったりするの苦手なんだ」


 イゼリアは、相棒の飛竜を撫でながら呟いた。

 冷たく、滑らかな鱗が気持ちいい。飛竜が小首をかしげて、その真ん丸な瞳にイゼリアを映す。


「でも、お父様の娘だから。立派な竜騎士にならないとね」

「キュアァ」


 同意するように返事が返ってくる。


 イゼリアはいつも相棒と一緒だった。

 物心ついたときから、ずっと。寝るときも、ご飯を食べるときも。

 雨の日は翼を傘にしてくれたし、夜にはその背中に寄りかかって本を読んだ。


 普通はここまでずっと一緒にはいないので、仲間に呆れられたこともある。

 だが、イゼリアにとって相棒は、家族であり、姉妹のような、そんな存在だった。


 *


 父が死んだ。


 瘴気魔獣に、乗っていた飛竜ごと呑まれたそうだ。遺体はおろか、遺品すらない。


 埋葬の日、墓標の前に立っても、そこにあるのはただの石。

 何を呼びかけても、声は空を切って返ってこない。

 触れることも、抱きしめることもできない。

 ――“ない”という事実だけが、胸にぽっかりと穴を開けた。


 空っぽの墓を前に、イゼリアはギリ、と奥歯を噛む。


 いつだってそうだ。瘴気は、大切なものを奪っていく。

 笑顔も、幸せも、大切な人も。何の前置きもなく、突然奪っていく。

 許せる筈がなかった。


「……竜」


 拳を握る手に力が入り、爪で掌を傷つけて血が滲む。それにすら気付かないほど怒りに支配されていると、その手の甲に滑らかな何かが触れた。


「キュウ…」


 隣から伸びてきた首が、手の甲に触れる。

 相棒の飛竜だった。冷たい鱗、確かな体温、呼吸。

 ここには“ある”。触れれば応える。撫でれば目を細める。

 イゼリアの掌を労わるように舐めるその“確かさ”に縋らなければ、立っていられなかった。


 *


 これ以上の悲しみを広げないために。イゼリアは父の姿を借りた。

 勇ましく、常に凛とあれ。迷いを与えぬ、確かな存在たれ。


 だけど、それは虚栄だ。

 時折疲れて泣いた。もうこの立場を投げ出したいとすら思った。


 でもどんな時も、相棒が常に隣にいてくれた。

 だから頑張れた。踏ん張れた。それなのに。


 *


 眠っているかのように横たわる相棒を撫で、イゼリアは怒りに震えていた。


 誰に。一番の怒りの矛先は自分だ。

 確かに様子が変だった、だが瘴気が濃かったから、そのくらいにしか考えていなかった。


 アレンという名の少年は、イゼリアより先に相棒の不調に気づいていた。

 それが何よりも腹立たしかった。


 そして、瘴気。また奪うのか。

 もう許せない、この手でその源を絶つまで、止まれない。


 ――ごめん、行ってくるね。


 そのまま飛竜の首筋に額を押し当て、静かに呼吸を合わせる。

 脈拍を感じる、呼吸をしている。大丈夫、まだ生きている。


 長くそうしていたが、やがてイゼリアは立ち上がる。竜槍を地に突き立て、硬い音が瓦礫に響く。


 もう泣かない。イゼリアはぐっと顔を上げた。


「私は相棒を取り戻すために、お前たちと旅をする」

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