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竜が見た夢  作者: 無名の記録者
第1章 冒険の始まり
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第2話 師弟

 重い鎧の音がして、アレンは顔を上げた。


 後ろでざっくり束ねられた灰色の髪、荒野を渡ってきたような深みを宿す琥珀色の瞳。

 全身を覆う無骨な重鎧は、飾り気がないにもかかわらず異様な威圧感を放っている。


 ダリオス。

 アレンとジークの師であり、二人にとっては背中を追うべき存在だった。


「アレン、まだまだ甘いな。……だが、よくやった」


 短く、しかし確かな言葉。

 アレンの肩に置かれた大きな手は岩のように重く、同時に揺るぎない安心を与える。


 けれどアレンは素直に頷けなかった。

 さきほどの一撃――発動が遅れたのは事実だ。

 もしジークが押し止めていなければ、狼の牙は自分の肩を抉っていたかもしれない。


「……はい」


 絞り出す返事に、悔しさがにじむ。

 ダリオスの評価を真っ直ぐに受け止められるほど、自分はまだ強くない。


 次に、ダリオスの視線がジークへと移った。


「ジーク。お前は動きすぎだ」


 ジークはむっと眉を寄せ、子供のように口を尖らせた。


「結局、説教かよ。褒めるの下手くそだな」

「……聞いてるのか?」

「聞いてるって!でも、たまには褒めてくれてもいいだろ」


 ジークの声には苛立ちよりも拗ねた響きが混じっていた。

 アレンが思わず笑みをこぼす。

 その笑いに釣られてジークも肩をすくめ、結局三人の間に柔らかな空気が流れた。


 軽口の裏に、師の言葉を気にしているのが見え隠れする。

 それを察したのか、ダリオスはわずかに口元を緩めた。


「褒められたいなら、もっと強くなれ」

「ほらな!やっぱ褒めるの下手くそ!」

「下手でも構わん。強さは結果が語る」


「ちぇっ……」と舌打ちしながらも、ジークの口元には小さな笑みが浮かんでいた。


 結果が、語る。

 その一言に、アレンは無意識に背筋を正していた。


 そのとき――。

 草むらが揺れ、黒い影が飛び出した。

 先ほどの魔獣の残滓か、それとも新たな魔獣か。

 反応するより早く、風を裂く轟音が響く。


 気づけば、ダリオスの大剣が抜かれていた。


「――はっ」


 巨大な鉄塊のはずが、振り下ろされると刃は光の線にしか見えない。

 アレンは目を凝らしたが、その軌跡を捉えることすらできなかった。


 アレンもジークも、ただ息を呑んで見守るしかなかった。


 次の瞬間、飛び出した魔獣は真っ二つに割れ、大地に沈んでいた。


「……はや」


 ジークが呟く。

 アレンも言葉を失った。あの巨体を振るってなお、残心ひとつ乱れない。

 二人が必死に追いかけても届かない領域が、そこにはあった。


 ダリオスは血を払うように剣を振り、無造作に背へと収める。

 その仕草にさえ、無数の修羅場をくぐり抜けた者だけが持つ風格が漂っていた。


「帰るぞ」


 ダリオスが短く告げた。


「ここらの魔獣は粗方片付いた」


 その一声で、張りつめていた空気が一気に緩む。


「はい」


 アレンが素直に応じる。


「おう!」


 ジークはわざと大げさに返事をして、さっきのむくれを誤魔化すように笑った。


 荒野の風は冷たく、瘴気の匂いがまだ鼻を突く。

 それでも、師の背中を追うときだけは、不思議と前へ進む力が湧いてくるのだった。


 ――必ず追いついてみせる。その背中に。

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