幕間 魔法の練習
「アレン、誰かに魔法を習ったことはある?」
夕暮れの草原。
焚き火を挟んで座ったフィオナが、短い休憩の合間に問いかけてきた。
アレンは小さく首を振る。
「やっぱり……。基礎がなってないのに、よく実戦で使えてるよ」
フィオナは呆れたように眉を下げつつ、少し楽しそうに笑った。
横でジークが「俺もだな!」と元気よく挙手する。
「……だからこそ、この機会に教えてやってくれるか」
ダリオスが腕を組んで腰を下ろす。
弟子たちの姿を眺める目は厳しくもどこか柔らかい。
「魔法は、詠唱で魔力を外の属性に繋げるんです。火なら熱や爆ぜる力、風なら流れや斬撃……。省略詠唱もできるけど、精度が落ちたり暴発する危険もあるから、まずは正しく詠唱を覚えること」
フィオナは手本を示すように、小声で詠唱を紡いだ。
次の瞬間、彼女の掌にふわりと小さな光が生まれる。
温かくて柔らかい、まるで灯火のような輝き。
「――ホーリーライト」
ジークが目を丸くして前のめりになる。
「すっげ!俺もやってみていいか!?」
「どうぞ。でも、まずはアレンから。アレンは火が相性いいと思う。火の魔法だと――」
フィオナが簡単な魔法を教えてくれる。
促されて、アレンは深く息を吸った。
アレンにとって魔法は、今まで直感の延長線上でしかなかった。
戦場で必死に絞り出したものだ。
だが、詠唱を意識しながら集中すると――確かに何かが繋がる感覚がある。
「――ファイアアロー」
瞬間、空気が弾け、小さな火の矢がぱちりと生まれる。
焚き火の端を焦がす程度の頼りない炎――だが確かに“魔法”だった。
アレンは、ぐっと拳を握った。
「……何か、掴めた気がする」
アレンが呟くと、フィオナは驚きに目を見開く。
「え、こんな基礎で……?」
「お前は……魔法の師を仰いだ方が良かったかもしれないな」
ダリオスがぼそりと漏らす。
アレンは反射的に振り向いた。
「俺の師匠は、師匠だけだ」
アレンは静かに言った。その一点だけは譲れなかった。
一瞬の沈黙。
ダリオスの瞳がわずかに細められる。
「……勝手にしろ」
厳格さを崩さぬ声音だったが、その横顔にはかすかな笑みが宿っていた。
ジークも焚き火の明かりに照らされながら笑う。
「俺も師匠しかいらないや。怖いのは一人で十分だし」
「ほう……鍛錬が足りないようだな」
ダリオスの低い声に、ジークが短い悲鳴を上げる。
その横でフィオナが小さく笑う。
アレンも、気づかぬまま口元を緩めていた。
すぐ立ち直ったジークが、待ちきれない様子で身を乗り出す。
「なあ!俺もやっていいだろ!俺は風っぽいんだ!」
フィオナは少し苦笑しつつ頷く。
ジークは腕を突き出して勢いよく詠唱した。
「――ウィンドアロー!」
次の瞬間、風が巻き起こるが、矢の形をとる前にばらばらと散ってしまう。
突風に吹かれ、焚き火が大きく揺れた。
「うわっ、あっぶねえ!」
「……狙いが甘すぎる」
ダリオスの冷静な一言に、ジークが肩を落とす。
だが次の瞬間、散らばった風が再び集まり、小さな風の矢が一つだけ形を取った。
「おお……出た!」
ジークは子供みたいに歓声を上げる。
その顔を見て、フィオナも思わず笑みをこぼした。
~覚えておくと少し便利な魔法知識~
魔法について
・魔力は誰にでも少なからず流れている
・詠唱で魔力を属性に繋げ、現象として顕現させる
・省略詠唱は可能だが、暴発の危険あり
・武器と同時使用は高度で普通は難しい
属性の特徴
火=攻撃、風=機動、水=補助、光=回復・浄化、闇=妨害
習得の目安
・初級は誰でも可能(火花や風など)
・中級以上は属性適性の差が顕著
・天才や熟練者は省略・高速詠唱も




