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竜が見た夢  作者: 無名の記録者
第3章 遺跡の真実
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第6話 残された疑念

 ジークがドカッと石に腰を下ろし、荒い息を吐いた。

 ダリオスは黙って剣を背に収める。その所作には、なお気を緩めぬ鋭さが宿っていた。


 アレンは壁にもたれ、腕を組んだまま目を伏せる。胸の奥に、あの戦いの残滓がまだ燻っている。

 隣でフィオナが同じく壁に背を預け、腰を下ろして、杖を抱えたまま静かに息を整えていた。


 しばしの沈黙のあと、アレンが口を開く。


「……灰色の目の男。俺たちを殺す気はなかった気がする」


 即座にジークが吐き捨てる。


「甘ぇこと言うな。敵は敵だ」


「けど――」アレンは顔を上げ、真っ直ぐに言った。


「フィオナを助けたのは事実だ」


 あのナイフは、確かに魔獣を狙っていた。誰一人として気配に気づけなかった中、あの一撃だけが魔獣からフィオナを守った。


「……あの目、少し寂しそうだった」


 フィオナが小さく呟く。その瞳にはまだ光の余韻が残っていた。


「お前ら……俺はあいつに蹴っ飛ばされたんだぞ!?」


 ジークは納得がいかないのか、憤りを隠さない。

 だが、その怒声すら長くは続かなかった。闇に沈む遺跡の空気が、言葉を呑み込むように重く静まり返る。


 やがて、ダリオスが低く呟いた。


「“環”……ついに奴らが遺跡にまで手を伸ばしてきたか」


 深く刻まれた眉間の皺は、彼の警戒と嫌悪を物語っている。


「祓う……救う……どちらが真実なのかな」


 フィオナは膝の上で手を組み、祈るように囁く。


 アレンはその横顔を見つめ、続けて剣の柄を握ると少しだけ鞘から引き出して見下ろした。

 冷たい銀の刃が、ただ彼の顔を映し返すだけだ。


「……答えは、ここじゃなくて……俺たちの旅の先にある」


 口にしてから、ほんの僅かに苦笑が漏れる。

 問いかけても、剣が返事をするはずはない。

 それでも、握った重みだけが確かにここにある。


 言葉が闇に落ちると、静寂が戻った。

 だがそれぞれの胸には、灰色の瞳の残像が、闇に溶けずに沈んでいた。

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