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竜が見た夢  作者: 無名の記録者
第3章 遺跡の真実
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第4話 刃の応酬

 崩れた石壁に刃がぶつかり、鋭い金属音が弾けた。


 男が突然切りかかってきた。

 アレンは咄嗟に剣を構える。男の双短剣を受け止める、火花が散った。


 互いの目が真っすぐ交わった瞬間、緊張が背筋を走る。


「今だっ!」


 ジークが吠え、剣を振り抜く。

 だが男は軽く身をひねる。

 刃を絡め取り、足先で瓦礫を蹴り飛ばした。


 崩れた石片がジークの足元を乱し、体勢が崩れる。


「うわっ――!」


 そこへ刃がかすめ、横薙ぎの蹴り。鈍い衝撃にジークが呻き、石畳へと膝をついた。


「チッ、器用すぎやがる……!」


 ジークが悪態と共に血を吐き捨てるような声を漏らす。


「ジーク!」


 フィオナが駆け寄る。彼女の掌に白銀の光が瞬き、傷口を包み込む。

 詠唱、そして。


「――ホーリーライト!」


 柔らかな輝きが広がり、裂けた肉が癒えていく。痛みが静かに薄れて、ジークの表情から苦悶が消える。


「助かった……悪ぃな」


 ジークが短く息を吐き、顔をしかめながらも立ち上がる。


「……女を盾にするのか?」


 男が鼻で笑い、刃先をフィオナにちらりと向けた。その声音は冷ややかで、挑発に満ちていた。


 アレンが一歩踏み込む。だが相手の動きは影のように掴めない。

 左から刃が来たと思えば消え、右から斬り込まれる。アレンは辛うじて受け止めるが、衝撃に手が痺れる。


「くっ……!」


 ジークが再び剣を振るうも、空を切るばかり。


「ちょこまか動きやがって!」


 怒声が遺跡に反響する。


「ジーク、焦るな!」


 ダリオスの低い声が飛ぶ。


「アレン、足を止めろ。奴は速さで翻弄している。受けに徹しろ!」

「了解!」


 アレンは深く息を吐き、剣を構え直す。反撃を焦らず、受けを主体に相手の癖を読む。

 男の灰色の瞳が細められ、嘲るように光る。


「頭は悪くないな。だが――」


 ひゅっ。

 男の指先が動いたかと思うと、闇を裂く影の閃きが走った。一直線にフィオナを狙う。


「フィオナ!」


 アレンの叫びより早く、ダリオスが動いた。大剣を掲げ、甲高い音を響かせて刃を弾き返す。ナイフが床に突き刺さり、白い火花を散らした。


「……回復役を狙うとは、卑怯な真似を!」


 ダリオスの怒声が轟く。

 アレンは怒りに駆られ、剣を強く握る。


「仲間を――フィオナを狙うな!」


 男は肩をすくめ、冷たく笑った。


「仲間?回復役を潰すのは戦の常道だろう。……魔獣相手にも同じことが言えるか?」


 アレンの瞳が揺れる。確かに、魔獣との戦いでは弱みを突く。それは生存のための理。

 だが、それでも。


「……納得はできない!」


 剣を握る手に力が込もる。

 剣が低く唸った。


「へぇ……」


 男の瞳が、わずかに興味を帯びる。


 アレンが踏み込み、剣を振るった。鋭い風圧が石片を吹き飛ばす。

 刃の軌道に男の体が止まる。金属音と共に火花が散り、短剣で押し返された。


「……いい剣だ」


 男が呟く。その背後ではジークが再び構えを整え、ダリオスは盾のように大剣を固め、フィオナが震える指先で光を紡ぎ続けている。


「俺たちは……守るために戦う!」


 アレンの叫びに、男の瞳がわずかに陰った。


「守る……ね」


 吐き捨てるように、男は短剣を交差させた。


「竜を信じねぇで、何を信じる?光か?そんなもんじゃ瘴気は消せねぇよ!」


 その声には揺るぎない信念の響きがあった。

 光の魔法だけでは瘴気を消しきれない。誰もが心の奥で知りながら、口にしなかった事実を突きつけられ、フィオナの肩がわずかに震える。


「……それでも」


 アレンの脳裏に、二度見た奇跡がよぎった。

 命を救った輝き。闇を裂いた光。あれは幻などではない。

 アレンが低く答える。


「俺は、光を信じる」


 剣を振り下ろす。

 鋭い金属音が再び遺跡を震わせ、二人の刃は火花を散らしながらぶつかり合った。

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