第5話 苦戦
『Round 3 - VICTORY -』
《Player 774 (ジン) HP: 4 | Player 812 (オーク) HP: 5》
《Round Winner: Player 774》
勝った……! 初めて、あのオークに勝った! ラウンド勝利だ!
相手のHPゲージが「6」から「5」に減る! 盤面に残った俺のユニットたちが誇らしげに輝いている。
「やった……! やったね! ジンさん!」ミミが満面の笑みで飛びついてきた。
「ああ……! やったぞ、ミミ!」俺も興奮で声を上ずらせながら、彼女を抱きとめた。☆2ユニットを2体揃え、レベルアップによる配置数増加(Lv2/Units3)を活かしきった結果だ!
しかし、油断はできない。相手のHPはまだ5も残っている。こちらはHP4。次のラウンドで負ければ、状況は一気に不利になる。相手も次はさらに強力な構成で来るはずだ。
「ジンさん……」ミミが俺の服を掴む。「……でも、勝てたね!」
「ああ。大きな一歩だ」俺は頷いた。「だが、本当の勝負はこれからだ。相手も次はさらに強力な構成で来るはずだ。俺の構成も読まれただろうからな」
俺は次の準備フェーズで表示されたストアのラインナップを、勝利の余韻に浸りつつも、これまで以上に真剣な目で睨みつけた。ここからどう戦うか? 俺たちの反撃は、まだ始まったばかりだ――
『Round 4 - Prepare Phase -』
《Player 774 (ジン) HP: 4 | Coin: 11 | Lv: 2 | Units: 3/3》
《Player 812 HP: 5 | Coin: 10 | Lv: 2 | Units: 3/3》
第4ラウンドの準備フェーズが始まった。HPはジン4、相手5。**レベルは互いに2のままで、配置可能数も3だ。**レベルアップは次の第5ラウンド開始時のはず。コインは勝利した俺が11、敗北した相手が10。わずかなリード。
盤面には復活した☆2ロックゴーレム、☆2フレイムパピー、☆1サンダーバードがいる。ベンチには☆1サンダーバード1体、☆1アイアンタートル1体。
「ミミ、相手は?」
「うん!」ミミは集中して相手のオークを観察する。「すごく悔しそうにしてる……。ストアを何度も見て、リロールもしてるみたい。えっと……青いマークのメイジと、キラキラしたスピリットを見てる時間が長いかな……?」
メイジとスピリット? やはり俺のサンダーバード(メイジ)が効いたと見て、魔法構成に切り替えるか、あるいはメタを張ってくるか……。どちらにせよ、こちらも対応が必要だ。
俺はストアを見る。
【アクアスライム(スライム/メイジ)☆1 コスト3】
【ミストフェアリー(フェアリー/スピリット)☆1 コスト3】
【ウィンドフェザー(バード/アサシン)☆1 コスト3】
【サンダーバード(バード/メイジ)☆1 コスト3】
【スパークピクシー(スピリット/メイジ)☆1 コスト3】
サンダーバードがいる! ベンチの1体と場の1体と合わせて3体目。購入(3コイン)。残り8コイン。☆2メイジだ!
ここは魔法火力を上げるべきか? 俺は【アクアスライム】(3コイン)、【スパークピクシー】(3コイン)を購入。残り2コイン。
ベンチのユニットを売るか? ☆1タートルを売却(+1コイン)。残り3コイン。これで【ミストフェアリー】を購入(3コイン)。残り0コイン。
最終配置。盤面には前回と同じ☆2ゴーレム、☆2パピー、☆2サンダーバード。変更なし。これで相手の出方を見る。ベンチに☆1アクアスライム、☆1スパークピクシー、☆1ミストフェアリー。【メイジ(3)】【スピリット(2)】構成に移る可能性を残している。
「相手の人、決まったみたいだよ! やっぱりメイジとスピリットを並べてる!」
『Combat Phase Start』
《Player 774: ☆2ロックゴーレム, ☆2フレイムパピー, ☆2サンダーバード | Bench: ☆1アクアスライム, ☆1スパークピクシー, ☆1ミストフェアリー | Syn: ゴーレム(1), タンク(1), ビースト(1), ファイター(1), バード(1), メイジ(1)》
《Player 812: ☆1アクアスライム, ☆1スパークピクシー, ☆1ウィスプ | Bench: ? | Syn: メイジ(3), スピリット(2), スライム(1)》
戦闘開始! 相手の構成は……!?
なんと、俺が先ほど試そうとした☆1メイジ3体のガラスキャノン構成! 俺が物理構成を続けると読んで、完全にカウンターを狙ってきたのか!
戦闘が始まる! 俺の前衛、☆2ゴーレムと☆2パピーが突撃! 相手には前衛がいない!
相手の☆1メイジたちがスキルを放つ! 【アクアショット】【スパーク】【プチウィスプ】! 魔法弾が俺の☆2ゴーレムに集中する!
だが、☆2タンクは硬い! さらに俺の☆2パピーが相手のメイジたちに襲いかかる!
後衛の☆1サンダーバードも【サンダーボルト】で援護!
相手の☆1メイジたちは脆い! ☆2パピーの攻撃とサンダーボルトで次々と倒れていく!
あっという間に相手盤面は全滅!
……しかし、俺の☆2ゴーレムと☆2パピーも、相手の集中砲火でやられてしまっている。そして、サンダーバードも相手の最後の抵抗で同時に倒されてしまった!
『Round 4 - DRAW -』
《Player 774 (ジン) HP: 4 | Player 812 (オーク) HP: 5》
引き分け……!? HPの変動はなし。盤面は激しい相打ちの末、更地になっていた。俺が維持した☆2ユニット3体構成は、相手が急遽組んできた☆1メイジ3体のガラスキャノン構成を粉砕したものの、こちらも無傷では済まなかった。
「……くそっ、勝ちきれなかったか」
俺は悔しさを滲ませた。あと一歩だったのに。
「でも、負けなかったよ、ジンさん!」
ミミが励ましてくれる。そうだ、負けなかったことが重要だ。そして何より、次のラウンドで俺たちはレベルアップする!
『Round 5 - Prepare Phase -』
『Level Up! Player Level: 3, Max Units: 4』
《Player 774 (ジン) HP: 4 | Coin: 10 | Lv: 3 | Units: 4/4》
《Player 812 HP: 5 | Coin: 10 | Lv: 3 | Units: 4/4》
そして、第5ラウンド開始! 待ちに待ったレベルアップ! レベル3になり、配置可能数が3から4になった! コインは引き分けだったので双方10コイン。HPは依然として4対5で俺が不利だが、配置数を活かして逆転してやる!
盤面には復活した☆2ロックゴーレム、☆2フレイムパピー、☆2サンダーバードがいる。☆2ユニット3体は強力な布陣だ。ベンチには前ラウンドで購入した☆1アクアスライム、☆1スパークピクシー、☆1ミストフェアリーがいる。
「配置数が4になった! これなら!」
俺は勝利への算段を立てる。
「ベンチのメイジを2体加えれば、火力もシナジーも大幅に強化できる!」
メイジを2体増やせば【メイジ(3)】が発動する。またスパークピクシーやミストフェアリーなら【スピリット(2)】だ。どちらを加えるべきか?
「ミミ、相手は?」
「うん!」ミミは集中して相手のオークを観察する。「あのオークさん……すごく悩んでるみたい。ストアのユニットを何度も見て、首を振ってる……。コインもあまり使ってないで、何かを探してる感じ……。それでね、今は……硬そうなゴーレムと、あとは……なんだろう、回復するやつと、もう一体……なんだかよく分からない効果を持っていそうなサポーター系のユニットを見てる時間が長いかな……?」
悩んでいる? ゴーレムとサポーター系? 回復と……よく分からない効果? やはり俺の☆2ユニット3体のパワーを警戒して、守りを固めつつ、何か特殊なメタを仕掛けてくるつもりか?
俺はストアを見た。
【ウィスプ(スピリット/メイジ)☆1 コスト3】
【アクアスライム(スライム/メイジ)☆1 コスト3】
【アイアンタートル(アクア/タンク)☆1 コスト3】
【ロックゴーレム(ゴーレム/タンク)☆1 コスト3】
【サイレンスプリースト(スピリット/サポーター)☆1 コスト3】
スピリット/メイジのウィスプがいる! ベンチのアクアスライム、スパークピクシー、ミストフェアリーと合わせれば、こちらもメイジ/スピリット構成をさらに強化できる。
どうする? 相手のメタを読んでこちらも構成を変えるか? それとも、☆2ユニット3体のパワーを信じて押し切るか?
いや、メイジ構成を尖らせる事にしよう。☆2ウィスプや☆2スパークピクシーを作れれば……!
俺は決断した。☆2メイジの作成を目指す!
まずストアの【ウィスプ】を購入(3コイン)。残り7コイン。
リロール!(1コイン)残り6コイン。
ストア更新! 【ウィスプ】! 購入(3コイン)。ベンチのウィスプと合わせて2体目。残り3コイン。
リロール!(1コイン)残り2コイン。
リロール!(1コイン)残り1コイン。
【ウィスプ】が来た! 3体目! しかしコインが足りない!
くそっ、あと2コインあれば☆2ウィスプが完成したのに! このままでは中途半端な☆1メイジをベンチに抱えるだけだ。レベルアップしたのに、盤面の強化ができない!
俺は盤面とベンチを睨みつけた。盤面には☆2ゴーレム、☆2パピー、☆2バード。ベンチには☆1アクアスライム、☆1ミストフェアリー、☆1ウィスプ2体、☆1スパークピクシー1体。
何か……何か手はないのか? そういえばユニットを売れば1コインになる。☆1アクアスライムと☆1ミストフェアリーを売れば2コイン。手持ちの1コインと合わせて3コイン。これでもウィスプは買えるが……。
その時、俺の目に盤面の☆2フレイムパピーが映った。こいつは強力なアタッカーだ。しかし、メイジ構成では不要な駒だ。もし、☆2ユニットを売却すれば2コインになるとルールブックにあった。
俺は覚悟を決めた。リスクは高い。だが、ここで勝負を賭けなければ未来はない!
俺は盤面の☆2フレイムパピーを選択し、「売却」ボタンを押した! ホログラム表示が『+2 Coin』に変わる!
手持ちは1コイン+2コイン=3コイン! これでストアの【ウィスプ】が買える!
俺はウィスプを購入(3コイン)! ベンチの☆1ウィスプ3体が光り輝き、☆2ウィスプがベンチに出現!!
やった! ☆2メイジを作れた! しかもスピリット持ちだ!
最終配置を急いで決める。盤面には☆2ロックゴーレムと☆2サンダーバードが復活している。空いた2枠に、完成した☆2ウィスプと、☆1スパークピクシーを配置! これが今の俺の全力だ!
「相手の人、決まったみたいだよ! 硬そうなゴーレムと……やっぱり、サポーター系のユニットを2体、盤面に置いた! あと、小さいメカみたいなのも!」ミミが報告。
『Combat Phase Start』
《Player 774 (ジン) HP: 4 | Coin: 0 | Lv: 3 | Units: 4/4》
盤面: ☆2ロックゴーレム, ☆1スパークピクシー ☆2サンダーバード, ☆2ウィスプ
シナジー: ゴーレム(1), タンク(1), バード(1), メイジ(3), スピリット(2)
《Player 812 HP: 5 | Coin: ? | Lv: 3 | Units: 4/4》
盤面: ☆2ロックゴーレム, ☆1サイレンスプリースト, ☆1メディックドール, ☆1ガードビット
シナジー: ゴーレム(1), スピリット(2), メカ(2), サポーター(2),プリースト(1)
戦闘開始! 相手の盤面は……!?
前衛に☆2ロックゴーレム! そして後衛には☆1の【サイレンスプリースト】と【メディックドール】! もう一体は壁役の☆1【ガードビット】! あの構成の狙いはなんだ!?
「……だが、こっちには☆2メイジが2体いる!」
戦闘が始まる! 俺の☆2サンダーバードと☆2ウィスプがスキルを発動しようとする!
しかし、その瞬間、相手のサイレンスプリーストがスキル【エリアサイレンス】を発動! 紫色の波動が広がり、俺のメイジたちのスキルアイコンに無情な×印が灯る!
「なっ……!? ☆2のスキルまで……!」
俺の最大の武器である魔法スキルが、完全に沈黙させられた!
その間に、相手の☆2ロックゴーレムがゆっくりと前進し、メディックドールの【リペアフィールド】で回復しながら、俺の前衛、☆2ロックゴーレムに殴りかかる!
☆2同士のタンク対決は互角! ☆1タートルも懸命に耐える!
スキルを封じられた☆2サンダーバードと☆2ウィスプは、通常攻撃しかできない。相手の☆2ゴーレムにはほとんどダメージが通らない! 回復もされている!
俺は歯噛みした。☆2パピーを売ってまで☆2メイジを揃えたのに、これでは意味がない!
時間だけが過ぎていく。俺の前衛が徐々に削られていく。☆2ロックゴーレムが、相手の☆2ゴーレムとガードビットの集中攻撃、そして回復の前にじり貧となり、ついに砕け散った!
「前衛が……!」
タンクを失った後衛の☆2メイジたちに、相手の☆2ゴーレムが迫る! スキルを使えない☆2メイジなど、ただの的だ!
☆2サンダーバードが殴られ、☆2ウィスプも殴られる! 抵抗むなしく、次々と光の粒子となって消えていく……! ☆1スパークピクシーもやられた。
『Round 5 - DEFEAT -』
《Player 774 (ジン) HP: 3 | Player 812 (オーク) HP: 5》
《Round Winner: Player 812》
HPは「3」。レベルアップしても、☆2メイジを作っても、そして☆2ファイターを売るという大きな賭けに出ても、相手の完璧なメタ戦略――あの忌々しいサイレンスプリースト――の前には勝てなかった。盤面は壊滅。相手のHPは5のまま。状況は再び絶望的に傾いた。
「……強すぎる……。読みも、構成も、完璧すぎる……」
俺は呆然と呟いた。これが、この船のギャンブル……。
次の第6ラウンドはレベル3のまま。配置数4。コインは10。相手は11。HPは3対5。
万策尽きたか……。俺は自分の無力さに奥歯を噛みしめた。
だが、俺はまだ諦めていなかった。負けはしたが、相手の手の内は読めた。耐久型のサイレンス構成。弱点は明確だ。火力がほとんどない。そして、回復役とサイレンス役のサポーターを先に落とせば、構成は瓦解するはずだ。
HP残り3。まだ負けられない。
俺は次の準備フェーズで表示されるであろうストアのラインナップに、全ての希望を託すしかなかった。そして、隣にいる小さな協力者の、類まれなる観察眼にも。
「ミミ、次が本当の正念場だ」
俺は隣の少女に声をかけた。
「最後まで、しっかり見ていてくれ。どんな小さなことでもいい。俺たちは、まだ終わらない」
「……うん!」
ミミは涙をぐっと堪え、力強く頷いた。その瞳には、恐怖よりも強い、俺への信頼が確かに宿っていた。