藤堂先生×陽菜の過去③
キッチンからリビングに戻ってきた陽菜ちゃんをソファへ。並んでソファに座り、たわいもない話で盛り上がり、リラックスした穏やかな時間が流れる。
「大ちゃん、お話聞いてくれる?」
陽菜が、意を決したように真剣な表情で俺をみる。
「俺は、陽菜から何を聞いても陽菜を嫌いになることもないし面倒だと思うこともないからそこは心配しないで」
陽菜は、手をギュッと固く力が入っているのがわかった。緊張しているんだろうと思う。でもそれを俺に話そうと思ってくれた事が嬉しい。
「看護学生のとき、3年から4年の間に1年間かけて行われた臨地実習の精神看護学実習の時ね、指導看護師さんとふたりで、保護室の病室の患者さんが、暴れないように、自傷行為をしないようにの意味でベッドに手と足が固定されていたの。会話も普通にできていたけど、失禁してしまって着替えとシーツ交換などが必要で、指導看護師さんの指導の元手足の固定を外したの。それで下半身の清拭を任されたの。ナースステーションへコールを入れて準備を持ってきてもらったの。患者さんの下半身の清拭をしてあげているときに……」
陽菜の手が震えて呼吸が荒くなってきたのを確認した。俺は陽菜に声をかける。
「大丈夫だよ。おいで」
そう声をかけると、俺の手をぎゅっとにぎりしめて呼吸を落ち着かせていた。俺は背中をさすり声をかけ続ける。陽菜は話を続ける。
「下半身を拭き終わり下着を着けるかオムツにするか?と相談していたとき、いきなり私に襲いかかってきたの。ご主人を返してって叫びながら首を絞められて……。患者さんだから突き飛ばすこともできず、怖くて苦しくてどうしようってこのまま死んじゃうかもって。そこからどうなったか覚えてないんだけど。気づいたら処置室で点滴受けてた。その時に担当してくれたのが山下先生で今も主治医をしてくれてる。黙っててごめんなさい」
「どうして謝るの?大丈夫。話してくれてありがとう。不安な時は、一緒に居られるように努力するから。当直だったりしたらごめんね。でも気持ちは寄り添ってるから」
陽菜は、まだ言葉を続けてくれる。
「実習は待ってくれないから、次の日も頑張って実習参加したの。そんな不安が患者さんに伝わってたのかもしれない。患者さんのトイレ介助で付き添って病室に帰る時に、リネン室に閉じ込められた。中からは外に出られないように細工されていたのか扉開かなくて真っ暗の中で震える事しかできなくて……」
まさか連続で、陽菜にこんな事が起こってたのか。よく看護の道を諦めずに頑張ってきたんだな。
「陽菜、頑張って看護の道に進んでくれて俺と出会ってくれてありがとう」
そう言うと陽菜は、勢いよく俺に振り返り大きな目で見つめてきた。
「陽菜、もうひとりで苦しまなくて良いんだよ。傍で支えるから寄りかかって俺に」
「迷惑かけちゃう」
「どうして何が迷惑なの?」
「突然、発作起こしちゃうかも」
「俺、医者だよ。大切な子を守らせてよ。他の誰かに助けられてる陽菜は想像したくないな。主治医の山下には治療は託すけどそれ以外は俺が陽菜の力になるから」
「新生児科医だもんね。陽菜、新生児じゃないから……」
「ひぃ〜なぁ〜」
陽菜は、天然ぶりを発揮しまくりわかってるんだかわかっていないんだか俺を振り回す。でも、俺からは離れないところが可愛いところでもある。
「陽菜、真面目な話しても良い?」
「なぁに?」
陽菜が、自分の話したくないであろう事を俺にありのままを話してくれた。だから俺も自分の気持ちを打ち明けようと決めた。
「俺は、陽菜の事がとっても大切でふたりで寄り添って支え合って生きていきたいと思ってる。愛してるよ、陽菜。これからの人生一緒に歩んでいって欲しい。俺と付き合って」
陽菜は、瞳に涙を浮かべ俺を見つめて
「よろしくお願いします。大ちゃんのこと大好き」
そう言って俺の胸に飛び込んできた陽菜をそっと抱きしめて
「陽菜、ありがとう」
こうして俺の告白が実った瞬間で陽菜とふたりで歩む道が開けた瞬間でもあった。




