藤堂先生×陽菜の過去②
予定より少し早いが俺のマンションに帰ってきた。買ってきた物を冷蔵庫へ入れていく。陽菜ちゃんは、自炊に慣れているのか
「大ちゃん、先に準備だけしておくね」
「手伝おうか?」
「大丈夫。大ちゃん、お皿とか勝手に使っても良い?」
「ここにあるものは好きに使って。どこ見ても構わないよ」
深い意味はなく言った言葉だったけど、陽菜ちゃんだからなのか
「ふふっ、キッチンには隠さないですよね」
えっ? 隠す? 陽菜ちゃんは俺が陽菜ちゃんにみられないように何を隠してると思っているんだ?
「えっ? 何も隠してないよ?」
「ふふっ、大丈夫ですよ。見つけても誰にも言いませんから」
何やら陽菜ちゃんの頭の中では俺が何かを隠しているのが確定している様子だった。
「陽菜ちゃん、手が止まってるよ」
「大ちゃん、依元師長や真智先輩みたいな事言わないでください」
頬を膨らませ、俺に背中を向ける陽菜ちゃん。ってか、俺が怒らせたのか!?
「陽菜ちゃんが、言い出しっぺでしょ?俺が何かを隠してるって。俺、陽菜ちゃんに見られて困るものなんてないよ。マジで」
陽菜ちゃんは、頬をほんのり染めて、小さな声で
「同期の子が、彼のお部屋で……みつけちゃたって言ってたから」
「えっ?何をみつけたの?」
小さな声で、何かをそっと呟いたが聞き取れなかった。
「えっちなDVDが、たくさん出てきたって言ってたもん」
そう言って両手で顔を隠してしまった陽菜ちゃん。いやいや、ナースがそれくらいで照れていたら……。可愛い一面を見せてくれる陽菜ちゃん。
「同期の子の彼、気持ちはわからなくもないけど若いね」
凄い勢いで、振り返り俺を見る陽菜ちゃん
「どうした?」
「大ちゃんも、どこかに隠してるの?いや、先生なら堂々と置いてあるかも」
凄い想像力と観察力だなぁと感心する。しっかり教えなくては色々と……。
「それじゃあ、気の済むまで寝室とか各部屋探しておいで」
「今、忙しいもん」
可愛い言い訳をしながら頬を赤くしている仕草にこっちがやられる。
「どこを探してもないから。さっきも言ったけど陽菜ちゃんにどこを見られても大丈夫だからここでは好きに過ごして」
「わかった。じゃあちょっと準備しちゃうから大ちゃんは、ゆっくりしてて」
「ありがとう。じゃあここで陽菜ちゃん眺めてようかな。お喋りしよう」
「はぁい」
普段では見られない陽菜ちゃんを見て、頬が緩むのが自分でもわかった。
陽菜ちゃんは手際よく、夕食に使うであろう食器やグラスなどをササッと取り出し準備して鍋の野菜も下準備している。
「陽菜ちゃん、慣れてるね。いつも自炊してるんだね」
「ひとりだから、手抜きの方が多いかも。誰かのために料理するなんて最近はないから」
ん? 最近はない? ってことは前はしていたってこと?誰に? 俺の中で黒い何かが広がっていくのがわかった。
「誰に作っていたの?」
「兄と一緒に住んでた時は交代で作ってたから」
そうだった。お兄さんいたね。あの会社の先輩事件の時に話してくれてたっけ。
「手際良くて感心してる。凄いよ!陽菜ちゃん」
「褒めても何もでませんよ。ふふっ」
「いやいや、普通に褒めてる」
全ての準備ができたらしく、ラップをかけて冷蔵庫に入れて、お皿やグラスにも布巾をかけるなどして本当に後は運ぶだけ状態。家庭的な子だなぁと思った。




