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悟×節分

「陽菜先輩、明日は節分ですね。小児科では節分行事するみたいですよ」


 朝から元気だなぁ。まぁ、いつもの事だけど。悟らしくて良いかっ。と思えるまでになっていた。指導した身としては、もう少し……と願わなくもないが、そこは個人を尊重しようと思う。


「鬼役でも頼まれたの?」


「陽菜先輩! なんて事を言うんですか。僕が鬼になったら子供達が豆を投げられないじゃないですか」


──はっ? なんで?


 この子との会話でたまに意味の通じない時があるのは気のせいだろうか。


「いやいや普通に、鬼は外ぉ〜とか言われながら豆を投げられるだけじゃないの? それできゃ〜とか言いながら病棟から出ていくだけでしょ?」


「陽菜先輩、いつの時代の豆まきを言っているんですか? 今は鬼は外って言いながらお豆さんを投げたらダメなんですよ!」


「えぇ? そうなの? 知らないんだけど」



「えぇ〜! 常識でしょ! 陽菜先輩! ナースとしてそれで良いんですか!?」


──マジでぇ〜、そこまでなの!?


「陽菜先輩、優しいさと様が教えてあげます」


──えっ? さと様って誰? ってか自分で言うの? さと様って!


「陽菜先輩、聞いてます?」


「もちろん!」


「苗字に[鬼]ってつく人がいますよね? 鬼頭さん、鬼塚さんとか、イジメみたいになっちゃうでしょ? それに、鬼頭さんや鬼塚さんが、鬼は外ぉ〜って豆まきしたら自分達を追い出してるみたいでしょ。だから豆まきしないで、みんなで仲良く恵方巻き食べるんですよ」


 自信満々に言う悟に思わず。


「知らなかった。そうなんだぁ。ひとつ賢くなったわ私」


 私達の話を聞いていた依元師長が、笑いながら会話に入ってきた。


「まぁ、確かにそんな事も聞くわね。でも恵方巻きにも、ちゃんと由来やしきたりがあるのよ」

 

「仲良く食べましょうね。じゃないんですか?」


「せっかく食べるなら教えてあげるわ。正しい食べ方。今年実践してみたら悟さん」


「ぜひ伝授してください! 師長様」


「恵方巻きは切らずに1本まるごとかぶりつくのがルール。休まず一気に食べることも提唱されているけど、無理をするのは禁物! 自分のペースで食べたら良いの。そして、恵方を向いて食べること。『恵方』っていうのは、その年の福を司る歳徳神としとくじんがいるとされる方角のことで、その方角に向かって、事をおこなうのは『万事に吉』とされているから、恵方を向いて食べるのよ。それから、恵方巻きを食べている間は、しゃべると口から福が逃げてしまうので、願い事を思い浮かべながら黙々とほおばりましょうね。悟さん!」


 悟は、メモを取りながら、師長の話を神からのお告げのような勢いで頷いて聞いている。


──いやいや、メモを取る必要あったか? 要点は「恵方巻きは切らずに黙って恵方を向いて食べましょうね」じゃないのだろうか?


 悟は依元看護師長を両手をすり合わせ崇めている。


「神様仏様、師長様!」


「悟さん、業務の手が止まってますよ」


 依元師長に指摘された悟は。


「では、オムツ交換に行って参ります」


 依元師長に敬礼して、オムツを大量に持つと保育器に向かって行った悟。


「陽菜ちゃん、あとはよろしく」


 そう言い残して颯爽とナースステーションを後にした師長。えぇ~、任せられても困ります! 真智先輩とか弥生先輩に丸投げしよう。そう心に決め、薬剤管理に戻っていく。


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