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岩崎先生×迫る脅威

 朝の申し送りが終わり、夜勤帯の看護師がナースステーションを後にして、新たな1日が始まる。


「ちょっとだけ、集まってもらえる?」


 医局長と鴻上先生の他に、もうひとり見知らぬ先生がナースステーションへ入ってこられた。


「忙しい時間帯に申し訳ないね。紹介しておかないとと思い、皆さんに集まって頂きました。それでは」


 医局長は視線を新しい先生にチラッと向けて頷くと、話の続きをし始めた。


「2週間NICUで勉強される、産科医の白鳥しらとり先生です。白鳥先生は一般病棟の産科で後期研修中で、小さく生まれた新生児のその後を、少しでも理解を深めたいと自ら志願して、ここNICUへ勉強に来られました。ナースのみなさん、よろしくお願いします」


 医局長に促され、私たちの前に一歩出た白鳥先生。


「一般病棟の産科で後期研修をしています白鳥しらとり忠司ただしと申します。看護師の皆様との連携や、指導医の先生方から色々と学び、実りある期間にしたいと思っています。至らない点はどんどん教えてください。一生懸命勉強したいと思います。よろしくお願いします」


 言葉遣いや私達看護師への対応などをみて、その先生とどう付き合っていくか判断する先輩看護師たち。私も新人の頃に真智先輩から、新しい先生や今いる先生達とどう接したら良いのか色々と教えてもらっている。


「岩崎先生よりもしっかりしていそう」


 弥生先輩の第一声が、これだった。


「岩崎先生とトレードお願いしたいね」


──真智先輩、きっとみんな思ってますよ。声に出して言わないだけで……。


「まぁ、悪い先生ではないんだけど、頼り甲斐はないわね」


──瑠璃先輩! それもみんな思ってると思います。あっ、悟は思ってないかも……同類だもんね!? それを聞いていた医局長が。


「喜多川さん、申し訳ないね。そうなんだよね。悪い先生ではないんだけど天真爛漫で」


──医局長、天真爛漫って……。その例え。


 その時、運がいいのか悪いのか……。


「おはようございます。あっ、看護師さん達全員集合して何か楽しいことですか? お仲間に入れてくださぁ〜い」


 その渦中の岩崎先生が、ナースステーションに入ってきた。


「さぁ、今日も1日頑張りましょう」


 真智先輩がこの場を締めた。


「陽菜ちゃん、白鳥先生に菜乃花なのかちゃんの看護記録を見せておいてくれるかな」


 鴻上先生に声をかけられた。


「わかりました。今すぐお持ちしますね」


「ありがとう。助かるよ」


 ファイル置き場から頼まれていた看護記録を探し、白鳥先生の元に向かった。


「白鳥先生、藍川あいかわ菜乃花なのかちゃんの看護記録です」


 頼まれていた看護記録を渡した。


「ありがとう。えっと……」


 私のネームプレートを見ていたので。


「矢崎陽菜です」


「矢崎さん、ありがとう。それでは拝見させていただきます」


「不明な点や質問があれば、私に聞いてください。菜乃花ちゃんの担当なので」


「ありがとう。助かります」


 白鳥先生は、とても丁寧な言葉で感謝を伝えると、奥のテーブルで看護記録に目を通し始めた。


「あれ? さと君が行方不明なんだけど」


 岩崎研修医がナースステーションに来ると、悟を探しているようだった。


「笹井さんなら、依元師長のお使いで出てますから、しばらく戻らないかも。私でよかったらお伺いしますよ」


「わわっ、陽菜ちゃん。親切だねぇ。う〜ん、そんな急ぎでもないんだけど……」


 放置しておいても良さそうだなぁと判断したので。


「何かあったら呼んでください」


 そう言ってその場を離れた。


「もう、陽菜ちゃんはツンデレさんなんだからぁ」


──放置しておこう。関わったら抜け出せない。忙しいんだから。


「矢崎さん、岩崎先生って、いつもあんな感じなんですか?」


「そうですね。ほぼ、あんな感じです」


「みなさん大変ですね」


「慣れましたけどね」


「ここの看護師さん達は本当にチームワークは良いし、こちらが全部言わなくても、察して行動してくださる方が大勢いらっしゃるから心強いです」


「ありがとうございます。そう思っていただけて嬉しいです」


 こうして白鳥先生の研修はあっという間に過ぎていった。



「ここで過ごした2週間で、本当にたくさんのことを学びました。医師と看護師の皆さんとの連携の凄さ、看護記録の丁寧さ、ひとつずつ挙げていったらキリがないくらい、一般病棟とは違い素晴らしかったです。その中で働けたことに感謝致します。お手を煩わせることも多々あったと思いますが、笑顔で対応してくださり感謝致します。本当にありがとうございました」


 こうして白鳥先生は丁寧な言葉を残して、一般病棟の産科へと戻って行かれた。


「師長、白鳥先生こっちに異動願い出してくれたら良いですよね」


 真智先輩が、依元看護師長に話していた。


「岩崎先生、どこかに研修行って立派になって帰って来てくれたら良いですよね?」


「恥晒しに行くようなものだと思いますけど」


 師長のぽろっと出た本音。まだまだ勉強中ということでそっとしておこう。今日も平穏な病棟でありますように。


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