弥生先輩×悟
「誰かな? 哺乳瓶使いっぱなしで置いてあるの」
弥生先輩が、ナースステーションを見渡しながら声をかけた。
「水色キャップの哺乳瓶なんだけど!」
そう言うと、ここに居たみんなが一斉に悟を見る。
「うわっ! 全員で僕を見つめないでください。照れます」
「言ってる意味がわからないんだけど」
「悟、哺乳瓶の説明してくれる?」
「えっ、弥生先輩、哺乳瓶知らないんですか? えぇ〜、哺乳瓶とはですね……」
悟の発言に、頭の血管が切れるような音が聞こえた気がした。すると、すかさず隣の陽菜ちゃんが。
「悟! 弥生先輩が言いたい事はそこじゃない」
「ほえっ?」
──悟さん、後でみっちり指導しないといけなさそうね。
「特別に私が指導してあげるわね」
「光栄です。でもぉ、お忙しいのに……」
やんわりお断りしているんだろうけど、野放しにはさせないからね。覚悟しておいてね。また一つ仕事が増えたわ。と内心思うが、思わず口角が上がっている事に気づいた。
「はいはい、皆さん。手が止まってますよ。お仕事してください」
悟が手を叩きながら、ナースステーションの止まった時間を再び動かそうとしたのだが。
「まず哺乳瓶片付けなさいよ!」
「あんたが時間止めたんでしょ!」
「悟! 看護記録早く出してくれないかな!」
敏腕ナースさとるんは、こうしてマルチタスクを自ら生むのであった。
「皆さん。そんなにいっぺんに言わないでくださいよ。僕はひとりしかいないんですから」
呆れた弥生先輩が一言。
「悟が二人も三人もいたら、逆に忙しくなるわ」
「…………言ってる意味がわからないんですけど」
ナースステーションが静まり返ると、悟は帰るまで弥生先輩のガミガミタイムを受けることになりました。




