藤堂先生×意外な持ち物
「藤堂先生、白衣のポケットに可愛らしいものが鎮座してますね。ん? あれ? でもそれ、どこかで見たことあるような……」
「あぁ、これね。うん」
めんどくさい事になる前に岩崎先生から離れなくては。
「あっ、ちょっとどこ行くんですか。いやいや待ってくださ〜い」
「コーヒー買いに行ってくる」
「えぇ〜、いまぁ!」
サッとその場を離れる。
──使ってくださいって言われてそのままだったなぁ。この子、このポケット居心地良かったのかも知れないなぁと勝手な想像をする。
昨日のナースステーション。
急ぎの書類を忘れていたため、師長に催促されていたのだが、書類にサインしようと思いポケットからポールペンを取り出した。
「あれ? 書けない」
余白にクルクルペンを走らせてみるけど書けない。他に書くもの持ってないなぁ。困っていると。
「藤堂先生、何かお困りですか?」
目の前から声をかけられた。
「あっ、陽菜ちゃん。師長に書類催促されててね。書いてたんだけど、ボールペンのインクが出なくてサイン出来ないんだよ」
そう言うと陽菜ちゃんは、私ので良かったらどうぞと、白衣のポケットから可愛らしいキャラクターがついたボールペンを差し出してくれた。
「私、他にもあるので良かったら使ってください」
差し出されたペンを受け取ると、坂倉看護師に呼ばれて行ってしまったので返すことができず、こうして白衣のポケットに挿したままになっていた。
「藤堂先生、今日もまたポケットに鎮座してますねぇ。ふふっ、その子の居場所が、陽菜ちゃんのポッケからお引越ししてきたんですね。もう、大事そうにポッケにいらっしゃいますね。ってか、僕のポッケにお引越しさせませんか?」
岩崎先生の軽いノリから逃げるべく。
「引っ越しはしません。ここで定住です」
「うわっ、即答ですね。僕もおねだりしてこようかなぁ。白衣のポッケ寂しいもんで」
岩崎先生のポケットに、製薬会社の名前が入った、どこにでもあるようなボールペンを敷金礼金なしで入居させた。
「はい。これでポケット寂しくないからね。そろそろ回診の準備して」
「えぇ〜、これ可愛くないです! ポケットに鎮座しなくて良いですぅぅ〜」
岩崎先生の叫び声が医局にこだました。




