悟×余計なひとこと
バタバタ急ぐ足音が廊下に響く。
「真智先輩、廊下騒がしいですね」
「どうせ悟じゃないの?」
穏やかな病棟に似つかわしくない廊下の騒々しさを、病棟内のナース達に話題にされる笹井看護師。
「おっはよ〜ございま〜すぅ」
テンション爆上がり中なのか、いつも以上の賑やかさのウチの病棟の愛されキャラ看護師の笹井悟。
「ほらね」
「真智先輩、凄いですね」
「あれ以外に考えられる?」
「考えられないですね」
「そうでしょ」
そんな話をしていると。
「真智先輩と陽菜先輩、朝からどうしたんですか? めっきり老け込んでませんか」
この子はまた余計なひとことをつぶやいた。そのひとことを真智先輩が放置しておくはずもなく
「若くて元気な悟さんに、朝のローテーション準備全部ひとりでやってもらうね。私たち老け込んで動けないから、若くて元気が有り余ってるもんねぇ、さ・と・る・さん」
「ほぇっ、へっ? またまたぁ。あっ、美味しいカフェオレ作りましょうか! 真智先輩好きですもんね」
ご機嫌を取りに来た悟。でもねぇ、甘くないよ。真智先輩にそれは通じるはずもなく。
「それさぁ、お湯入れるだけ。誰でも美味しくできるからね。大丈夫」
「お湯の入れるタイミングや速度もあるんですよ!」
どんなタイミングやねん! 速度ってなんやねん! っと、ツッコミたくなるのを抑える。
「悟、くだらない話は要らないから、ローテーション準備ひとりでして!」
「ひ……な……センパイ……」
小さな小さな声で私に助けを求めてきたけど。
「真智先輩のお勧めのハンドクリーム使ってみたんですけど……」
悟は、私からフォローはしてもらえないと諦め、ひとりで準備に行くのかと思いきや。
「弥生せんぱ〜い、おはようございま~す。一緒にローテーションの準備しましょうよぉ。弥生先輩と一緒にできて僕、嬉しいです」
でしょうね。悟だもんね。隣の真智先輩をチラッと見てみると、きっとわかっていたんだと思う。笑って視線で追っていたから。
今日も1日頑張ろう。笑顔で足取り軽くナースステーションに向かって歩く。




