悟×姉×誰?
「みなさん、今年もよろしくお願いしますね。お年始代わりに、みんなの好きなあのお店のフィナンシェを買ってきたから食べてね。さぁ、今年も笑顔で頑張りましょう」
師長の挨拶も無事終わり、それぞれの持ち場へ向かう。そんな時、病棟の内線電話が鳴った。
「NICU病棟、ナース矢崎です」
電話の相手は、救急外来からで、悟の姉が救急外来にいると言う事だった。
「わかりました。すぐに向かわせます。はい、そのように伝えます。失礼します」
内線を終えて、師長に悟を救急外来へ向かわせる許可を得なくては。
「あれ? 陽菜先輩、そんなに急いでどうしたんですか?」
「あっ、悟。落ち着いて聞いてね」
「はーい」
「笹井七彩さんって悟のお姉さん?」
「そうっすよ。陽菜先輩、会いたいんですか?」
「今、救急外来から内線が入ったの。七彩さんと一緒にいた男性の方と、スピードを出して歩道を走っていた自転車が、バランスを崩してぶつかったらしいんだけど、その男性が倒れる時に、隣にいた七彩さんも一緒に倒れたそうなの。それで、七彩さんは軽傷で済んだんだけど、男性の方が重症みたいで、七彩さんがパニックになっているらしいの。だから悟、師長に許可もらっておいたから、救急外来に行っておいで。ここは大丈夫だから」
「陽菜先輩、七彩姉ちゃんと一緒だったって男の人って誰?」
──悟、心配はそこじゃないよね? いや、そこもなのか? ってか、悟が知らないのに私が知るわけないでしょ。
「いや、誰だろう? 彼とかじゃないの?」
「えぇ〜、七彩姉ちゃんの彼氏! 陽菜先輩! 無理無理、俺、どうしよう」
「ってか、早く救急外来行っておいで。お姉さん待ってるんじゃないの? 悟のこと」
「陽菜先輩、代わりに行ってきてください。俺、姉ちゃんの彼みたくないです」
「いやいや、彼かどうかなんてわからないじゃん。行っておいで」
「陽菜先輩が、七彩姉ちゃんの彼って言ったんじゃん」
子供かっ! そう思っていると、真智先輩が師長に聞いたであろう内容を口にした。
「悟、お姉さんに顔見せて来てあげな。悟の顔見たら安心するはずだから。悟は白衣の天使だもんね。自慢の弟だと思うよ。お姉さんからみた悟は。だから顔見せておいで」
「わっかりました! 陽菜先輩、真智先輩、行って参ります!」
真智先輩の後押しのおかげで、悟は救急外来へ向かって行った。




