年末×差し入れ
「みんな、今年もお疲れ様ね。年末のお約束。年越しそば&年越しうどん。好きなのを選んでねぇ」
そう言って依元師長は、ナーシングカートにカップ麺の段ボール箱を数箱積んでナースステーションへ入ってきた。毎年恒例の、師長から病棟スタッフへの差し入れのひとつ。
「師長ぉ、ありがとうございますぅ」
真っ先に反応する悟。
「悟くん、2個あげるわね」
「師長ぉぉ、大好きです。愛してますぅぅ」
始まったわ。師長と悟のミニコント。と誰もが思っている。ここで声をかけようものなら、火の粉が飛んでくる事もわかっているので、誰も何も言わない。その代わり──
「弥生先輩、どれにします?」
「悩むわよね。私、去年は食べたことなかったからカレーにしようと思ってたら、まさかの1番人気。帰る頃には無かったんだよね」
「そうでしたね。定番のうどんが残ってましたよね」
「それはそれで美味しいんだけどね。おあげさんがジューシーで」
師長と悟以外で、盛り上がる。
両手にカップ麺を持ち、にこにこ顔の悟に、依元看護師長が近寄る。
「悟くん、2個取ったわね」
「はいっ。いやぁ、師長はほんと太っ腹ですね~」
『太っ腹ですね~』
この一言に、場の空気がピリついた。なぜなら、最近師長はお腹周りのお肉を気にしていたからだ。
それを知ってか知らずかなどはどうでもよく、太っ腹などというワードを口にした悟。
「かわいそうに。悟は市中引き回しの末に、島流しの刑に処されるわね」
私の隣で弥生先輩が呟く。
「21世紀の刑とは思えませんね。無事に年越せるといいですね」
カップ麺を師長に奪い取られると、そばより長いお叱りタイムが始まった。
私と弥生先輩は、悟に手を合わせると、カレー味のカップ麺をゲットして喜んだ。




