真夜中×休憩室
「陽菜先輩、藤堂先生が呼んでましたよ。さっき言うの忘れちゃいました」
「悟、そう言うのは、早く伝えてくれないとダメでしょ」
「えぇ、真夜中ですよ。脳は寝てる時間ですよ」
「寝たらダメでしょ。夜勤中なんだから。藤堂先生ところに行ってくるから、ここ任せるよ」
悟にそう言うと
「えぇ〜、早く戻ってきてくださいよ。みんな一斉に起きたら僕一人で対応できないですから」
今まで、一斉に起きた事なんてないでしょう。と思ったが言うと長くなりそうだから我慢して、ナースステーションを出て医局へ向かった。
「失礼します。ナース矢崎です」
そう言いながら医局の扉を開ける。そして中を確認すると
「陽菜ちゃん、忙しかった?ごめんね。呼び出して」
「病棟は落ち着いてます。笹井君の伝言、今聞いたんです。藤堂先生、急ぎじゃなかったですか? 内線で呼んでもらって大丈夫ですよ」
遅れたにも関わらず笑顔で、私の話を聞いてくれる。
「今日、なんちゃら流星群で、流れ星が見れるかもってみんな話してたから、陽菜ちゃんと見に行っちゃおうかなぁと思って」
藤堂先生は、イタズラをしている子のように、何だか楽しそうだ。
「流れ星!? 初めてです! みた〜い」
「ちょとだけ休憩兼ねて、中庭から空を眺めてみよう」
ふたりで中庭に移動する。扉を開けて外に出る。
「寒っ!」
流れ星を探すより、寒さが勝る。
「陽菜ちゃん、これ掛けて」
どこから持ってきたのかブランケットで私を包んでくれた。そして空を見上げる。
しばらく眺めていると、放物線を描くように光の粒が流れた。
「あっ!」
「流れたね」
抱きしめてくれている藤堂先生の手に力が籠ったのが伝わった。
「あっ、お願い事するの忘れちゃった」
「陽菜ちゃん、一瞬じゃできないでしょう。お願い事。星じゃなくて俺にお願い事した方が叶うかもしれないよ」
「ふふっ、そうかも。そろそろ戻らないと悟に泣かれるかも」
「陽菜ちゃん、せっかく二人でいるのに野暮だね。他の男の名前を呼ぶなんて。お仕置きだよ」
へっ!? キャラ違わない? 寒い場所ではキャラ変するのだろうか? 気をつけなくては。
中庭から病棟に戻ると悟は、差し入れのフィナンシェを頬張っていた。
「戻りました。変わりない?」
「はい。陽菜先輩怒られませんでした?」
「なんで、怒られる前提なの」
悟は特に意図して言っているわけではなく、社交辞令のどうでもいい内容と同じで、とりあえず言ってみたというだけだろう。
「食べたらラウンドの時間だよ。ごっくんしたら行っておいでよ」
「了解です。あっ、もう一個食べてもいいですか?」
こういう子だったわ。平穏だし、悟のペースでしてもらおう。
「うん。いいよ。食べたらお願いね」
「了解です!」
今日の夜勤帯も平穏な時間が流れている。




