藤堂先生×陽菜×クリスマス④
陽菜ちゃんの様子を見守りながら、明日の予定を考える。
──ぐっすり睡眠をとったら大丈夫だと思うから、行きたいとおねだりされた方のパークを思いっきり楽しんでもらおう。そろそろ俺も寝るとするか。
どれくらいだっただろう。小さな声でごめんなさいと謝る声や助けを求めるような声が聞こえたような気がして目が覚めた。
「ん? 陽菜ちゃん? 陽菜ちゃん、陽菜ちゃん!」
額に薄ら汗を浮かべ、苦痛そうにしきりに謝り助けを求めている。
「陽菜、大丈夫。ひとりじゃないよ」
陽菜ちゃんが、目を覚まし肩で息をしている。
「陽菜ちゃん、大丈夫? ゆっくり息を整えようか」
横に座り呼吸を整える手伝いをする。
「ごめんなさい。起こしちゃいましたね」
落ち着いてくると陽菜ちゃんはそう言い、俺に身体を預けるように寄りかかってきた。
「陽菜ちゃん、ごめんなさいはなしだよ。助けてあげられているならそれでいい」
「頼りにしてます。誰よりも」
「うん。明日も楽しまなきゃ。だからゆっくり休もう。その前に汗を拭いて水分補給しておこう。お水とってくるね」
そう言って寝室を出て冷蔵庫に入れておいた水を取りに行く。ついでに洗面所へ向かい、棚からタオルを持って寝室へ戻る。すると陽菜ちゃんがベッドから降りようとしていたので慌てて駆け寄った。
「どうした?」
陽菜ちゃんは小さな声で、
「トイレへ行こうかと……」
「眩暈やふらつきはない?」
手を添えてゆっくりと立たせる。初めこそふらついたがしっかりしていた。
「大丈夫そうです」
「うん。途中で気分悪くなったりしたら呼んで」
「過保護ですよ」
「これぐらい心配させてよ」
しばらくして陽菜ちゃんが寝室へ戻ってきた。
「藤堂先生、休んでください。私のせいで起こしちゃって、本当にごめんなさい」
「ごめんは要らないよ。お水を飲もう」
ペットボトルを陽菜ちゃんへ手渡すと、お礼を言って受け取った。そのまま水分補給をする陽菜ちゃんを見守る。
「それじゃあ休もうか。ベッドに横になって」
「はい」
「体調悪かったりしたら遠慮なく起こしてくれて良いからね。おやすみ陽菜ちゃん」
「おやすみなさい」
しばらくして規則正しい寝息が聞こえてきた。それを確認して俺も眠りについた。
翌朝起きてきた陽菜ちゃんは、すっかり元気な様子で安心した。揃って朝食のバイキングに行くと、陽菜ちゃんは「凄い!」と言ってはしゃいでいた。
──竹野内に感謝だな。
パークに遊びに行く前に連絡入れろって言われてたのを思い出した。きっと陽菜ちゃんに会いに来るんだろうと思う。
「大ちゃん、どうかした?」
「竹野内から、パークに遊びに行く前に連絡入れろって言われてたなぁって思い出して」
「大事なこと忘れちゃダメですよ。私もお礼言いたいです」
「食べ終わったら連絡入れるよ」
そう言って笑顔で頷くと、お互いがプレートに取ってきた料理の美味しさマウント合戦が続いた。
楽しい食事も済み、部屋へ戻る前に竹野内にメッセージを入れたら、速攻で返事が返ってきた。
──おいおい、仕事してんのか?
今から部屋へ行くとの事だった。陽菜ちゃんへ伝えると、急いで戻りましょうと言ってくれた。
──いやいや、そんなに急がなくても良いと思うけどね。と陽菜ちゃんを見ていて微笑ましくなる。部屋へ戻りしばらくすると、竹野内が部屋に訪ねてきた。
「大雅、久しぶりだな!」
「今回はありがとう。急に連絡したにも関わらず、本当に助かったよ」
「いやいや、それくらいの権限持ち合わせてるんだって俺。それより紹介してくれないの? お前の大切な子」
余計なこと言うなよ! の意味を込めて睨むが、気にしていないようで早く紹介しろよと言ってくる始末。俺の後ろからそっと出てきた陽菜ちゃんが自己紹介を始めた。
「矢崎陽菜です。素敵なお部屋をありがとうございました」
そう言って頭を下げた陽菜ちゃん。
「うわっ、お前ひとりだけずるいじゃん! 俺、仕事してんのに、大雅だけこんな可愛い子とデートなの? ずるくない?」
俺に文句を言いながら、陽菜ちゃんに視線を向け、話し出す竹野内。
「大雅の友人の竹野内 悠です。よろしくね陽菜ちゃん! これ、陽菜ちゃんへ当ホテルからプレゼントです。良かったらもらって」
そう言って紙袋を手渡していた。見ても良いか確認している陽菜ちゃん。頷く竹野内。
「わぁ! 良いんですか? いただいちゃって」
なんだか嬉しそうだな、陽菜ちゃん。感動を全部、竹野内に持っていかれたような……。覗いてみると、ここのキャラクターのぬいぐるみやタオル、ポーチなど、いやいや、これホテルからっていうより、お前からだろと言いたくなるような品数だったが、陽菜ちゃんが気を遣わなくて良いようにそう言ったのだろうと思う。後から俺も買ってあげようと密かに対抗意識に火がついた。
竹野内への挨拶も済ませてパークへ。夕方まで陽菜ちゃんの行きたいところやしたい事などを堪能すると、お土産や自分達の記念のものなどを買いパークを後にした。
帰りの車でも陽菜ちゃんの興奮は続いていて、俺がプレゼントしたぬいぐるみをしっかり抱いていた。
「そのぬいぐるみが羨ましいんですけど」
ぼそっと言ってみる。
「へっ? 大ちゃんどうしたの?」
陽菜ちゃんはやっぱり陽菜ちゃんで、依元看護師長の、色々とは、こう言うのも含まれているんだろうなぁと痛感した。明日からはまた日常が始まる。夢の国からの帰り道は夢から覚めた感じが否めない。
「陽菜ちゃん、次はどこに行こうか?」
陽菜ちゃんの返事次第で……。
「大ちゃんとお出かけならどこでも楽しいと思うから、遠出しなくても近場でも嬉しい。お家で一緒にお鍋つついてるだけでも楽しいと思う。なんなら病院の中庭で一緒にランチでも嬉しいくらい」
予想していなかった斜め上からのような返答だった。
──ほんとに対応に困るよ。陽菜ちゃん。
「嬉しいこと言ってくれる。ありがとう。ランチ一緒に行けそうな時は声かけるね。また何処かに遊びに行こうか?」
「うん。楽しみにしてるね」
そうこうしてる内に、陽菜ちゃんの家の前に到着した。来客用の駐車スペースがあると言うので、そこに停めて荷物を運ぶのを手伝うことにする。
「陽菜ちゃん、昨日話せなかったこと今度ゆっくり聞いてあげたいんだけど、どうかな?」
「迷惑じゃなく、聞いても面倒だなぁって思わなかったら、藤堂先生には知っていてほしいかも」
小さな声だったけどそう言ってくれた。
「うん。わかった。個人用の連絡先もお互い交換したし、いつでも連絡入れて良いからね。すぐは返信できないかも知れないけど、ちゃんと折り返しするから」
「うん」
陽菜ちゃんにゆっくり休んで欲しいから、名残惜しいけどそろそろ帰ることにした。
「陽菜ちゃん、今日はゆっくり休むんだよ。それじゃあまた明日ね」
「はい。おやすみなさい」
そう言って可愛く手を振って見送りしてくれた。久しぶりに楽しいクリスマスを過ごせた。医師になって初めてかも……。俺も陽菜ちゃんと変わりないなぁって思った。お互いクリスマスを病院以外で過ごす事がなかったから。これからは、行事も少しは楽しんでいこうと思えたクリスマスだった。




