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藤堂先生×陽菜×クリスマス②

 車内の雰囲気もよく、目的地までまもなくとなった頃。隣の陽菜ちゃんは気づいたかなぁ? と思いチラっと様子を窺う。窓の外を眺めているものの、自分が夢の国へ向かっているとは気づいていないようだ。しかし、ここを抜けると……。


「あれ? えっ!」


 驚き戸惑っているのか、窓の外と俺の顔を交互に見て何か言いたそうにしている。可愛い。内緒にしてて正解だったな。ちょっと話を振ってみようかな。


「陽菜ちゃん、どしたの?」


「藤堂先生?」


「陽菜ちゃん、今日は先生じゃないよ。忘れちゃったのかな?」


 油断するとすぐに戻ってしまう。まぁ、仕方ないけど仕事じゃないところでは、先生は外して欲しいと思ってしまう。


「大ちゃん」


「ん? なぁに?」


 陽菜ちゃんは、言って良いのか迷っているようだ。いじわるしたくなってしまう。


「もしかして、今から行くところって……」


 おっ、気づいたかな。


「うん、わかっちゃったかな!」


「もしかして夢の国……ですか?」


 その言っても良かったんだろうかと不安を浮かべた瞳に俺は。


「そうだよ。新しいエリアもできた事だしね。陽菜ちゃんと楽しもうと思ってるんだ」


 そう伝えると陽菜ちゃんは途端に笑顔になり。


「嬉しいです! 大ちゃん。ありがとう。凄く楽しみです」


 楽しみなのは俺も同じだった。ホテルも友人のおかげで当初より良い部屋に宿泊出来ることとなったのだ。実は先程、スイートルームに急遽空きが出たため、友人が気を利かせて、部屋を替えたと連絡が入った。普段忙しく、責任と緊張の中で働いている俺達へのご褒美だと思い、素直に甘える事にした。


 夢の国に着いたら、何をみて何を食べようなどと話していると、移動の時間もあっという間に感じ、思ったよりも早く到着した。荷物をフロントに預けて、早速パーク内へ陽菜ちゃんと繰り出すことに。


「陽菜ちゃん、絶叫系は大丈夫?」


「無理です。ごめんなさい」


「あはは、苦手なのね。俺もあまり得意ではないから助かったよ」


 陽菜ちゃんは、見た目通り柔らかなイメージそのままだった。そんな中、陽菜ちゃんが。


「大ちゃん、新エリアも楽しみなんだけど、あっち側の夢の国も行きたい」


 陽菜ちゃんの可愛いお願いに、あらかじめそう思っていたので。


「明日はあっち側へ遊びに行くつもりだよ」


 陽菜ちゃんの目がまんまるになって驚いている。うんうん、可愛い。


「大ちゃん、ありがとう」


「どういたしまして。2日間楽しもうね」


 手を繋ぎ、新エリアに向かってふたりで歩いて行く。途中で、お店に入ったりお揃いのものを買ったり閉園時間まで楽しんだ。パーク内で色々食べたりしていたからお腹は空いていると言う事はない。クリスマスだからと言うわけではないが、宿泊するホテルのバーへ向かう。そこは友人に勧めてもらった場所のひとつでもあった。


「予約していた藤堂です」


 こういうところの従業員は教育が行き届いていて対応がスマートだ。俺は陽菜ちゃんをエスコートする事だけに集中できる。


「藤堂様、お待ちしておりました。竹野内より伺っております。ご案内致します。こちらへどうぞ」


 俺達の一歩前を歩き、席へと案内してくれる。友人から話が伝わっていた様で、落ち着ける静かな席に通してもらえるようだ。


「こちらへどうぞ」


 陽菜ちゃんの椅子を引き、着席のアシストをしてくれる。それを見ながら俺も椅子に座った。


「本日は当店をご利用頂き誠にありがとうございます。私、支配人の御門みかどと申します。ご用の際は何なりとお申し付けください。それではごゆっくりとお過ごしくださいませ。失礼いたします」


 そう言ってテーブルを後にした。


「陽菜ちゃん、何飲もうか? 気になっているものあった?」


「お酒の名前だけでは、よくわからないんですけど。どうしたら良いですか?」


「それじゃあ、軽めのワインで乾杯しようか」


「はい」


「料理は友人の竹野内って奴がここで働いていてね。腕によりをかけて最高の料理を作るって張り切ってたから、乞うご期待」


 しばらくして料理が運ばれて来た。俺は陽菜ちゃんとグラスを重ね乾杯をすると、ワインと料理を存分に堪能した。さすが自分で最高の料理なんてハードルを上げていただけのことはある。陽菜ちゃんもこれには大満足のようだ。


 食後のデザートまで頂くと、俺達は部屋へと向かった。これまた用意してもらった部屋は豪華で、どんだけ部屋があるんだ? これがスイートなのかと、竹野内には後で食事のことも含めて、きちんとお礼を伝えようと思った。


 陽菜ちゃんは、部屋を探検しているのか、きゃあきゃあ言いながらあちこち見て回っている。ってか、寝室はどうなってるんだ? ちゃんと別って言っておいたよな。そんな心配をしていると。


「大ちゃん! すご〜い」


 陽菜ちゃんの声が聞こえた。声のする方へ行くと、大きな窓のカーテンを開けて夢の国の夜景を堪能していた。


「陽菜ちゃん、ここにいたの?」


 そう言って横に並んで立ち、しばらく一緒に夜景を楽しんだ。しかし、後から陽菜ちゃんの抱える闇を垣間見る事になるなんてこの時はまだ思ってもみなかった。


その頃病棟では……


「あれ? 陽菜先輩は?」

「今日は有給休暇らしいよ」


「えっ? 去年のクリスマスは一緒に夜勤で、寂しいクリスマス仲間だったのに。真夜中に一緒に差し入れの冷えきったチキン食べた仲なのに、ひとりだけクリスマスに有給休暇だなんて!真智先輩、夜中に一緒にチキンでクリスマスしましょうね」


「せめてチキンは温めてよ」

「了解です!」


 病棟も平穏なクリスマスが流れていたようだった。

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