藤堂先生×最終ミッション
陽菜ちゃんの休み依頼を依元師長へ頼むという難関を乗り越えた。今年は運良く俺がクリスマスに休みをもらえることになったため、確実に休みがもらえる。去年は鴻上先生がクリスマスに休みを取得した。後は陽菜ちゃんにクリスマスデートの約束を取り付けなくては。そのため、この後一緒にランチの約束をしている訳だが、その時、俺の私用のスマホが着信を告げた。
「今からお昼に出られます。藤堂先生は大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。それじゃあ行こうか」
「は〜い」
今日はキッチンカーがくる日で、天気も良かったため、中庭で食べようか? という話しになった。表玄関の広場にはキッチンカーが並び、その中でも最近、陽菜ちゃんが気に入っているというホットサンドと、具沢山なサンドウィッチのキッチンカーの前にやって来た。
「陽菜ちゃん、どれがお勧め?」
俺は陽菜ちゃんにお勧めを聞いてみた。
「藤堂先生はガッツリ系の方が良いですよね? この照り焼きチキンと、野菜のもりもりサラダサンドがいいと思います」
「じゃあ、それにしようかな。陽菜ちゃんは? 決まってる?」
「どうしようかなぁ。ホットサンドにしようかなぁ。迷う〜」
お勧めはスッと出てきたのに、自分のはなかなか決められない。かと思いきや。
「ハムチーズのホットサンドにします」
注文して出来上がるのを待つ間に、陽菜ちゃんは飲み物を買いに行くと言って、隣のコンビニへ行ってくれた。少しして商品が出来上がり受け取ると俺は、陽菜ちゃんを迎えにコンビニへ行くことにした。するとちょうど、陽菜ちゃんもこちらに向かって歩いてきた。
玄関で合流し中庭へと抜ける。
「ここ空いてるね。ここにしようか」
ふたりで並んで座ると、先程買った商品を置く。
「先生、コーヒーで良かったですよね」
そう言って俺の好みのコーヒーを手渡してくれる陽菜ちゃん。
「ありがとう。俺の好きなコーヒー知っていてくれたみたいで嬉しいよ」
良いように考えすぎかな? 偶然かも知れないけど、ついつい言ってしまった俺に。
「藤堂先生、医局でよく飲んでるのを見かけたので」
イタズラが見つかった子のように照れて下を向いてしまった陽菜ちゃん。
「陽菜ちゃんの勧めてくれたこのサンドウィッチ美味しい。リピ買いしそうだよ」
「他にもメニューたくさんありますよ」
「また一緒に食べてくれる?」
「ぜひ! 楽しみにしてます」
そろそろ本題に入らなくては休憩時間がなくなってしまう。深呼吸をして陽菜ちゃんと向き合う。
「陽菜ちゃん。クリスマス一緒にお出かけしない? 俺、25日、26日休みなんだよ。陽菜ちゃんも同じ日にお休み申請してもらえないかな?」
陽菜ちゃんの顔がぱっと明るくなった。それを見て、断られることはないのかなと勝手に思ってしまう。陽菜ちゃんからの返事を待つ時間が長く感じてしまう。
「依元師長、お休みくれるかなぁ。お休みもらえなくても藤堂先生とお出かけはしたいなぁ」
──えっ? 今、つぶやいた陽菜ちゃんの言葉。いや、お休みは出ると思うよ。根回ししてあるから。それは言えないけど。
「うん。わかった。お休み出なくても、クリスマスお出かけしようか。イルミネーション見て食事に行くのも良いね」
陽菜ちゃんは、嬉しそうに俺の話しを聞いてくれている。
「師長にお休み希望早く出してって言われてたので、今日中に提出しておきますね」
──師長、すでに陽菜ちゃんのところに休みの印してたのに、催促してるんだね。
「陽菜ちゃんはクリスマスに何か希望ある?」
「社会人になってからはずっと夜勤担当してたから、クリスマスにお出かけなんてした事ないんです。学生時代は実習や国試の勉強でそれどころじゃなかったし。思い返してみたら、私って大したクリスマス過ごしてないんですよね」
少し、悲しそうな顔をして笑ったような気がした。今年は笑顔にしてあげたい。そう思い。
「それじゃあ、お任せで良いのかな?」
「はい! 楽しみにしてます」
──クリスマスを楽しいものにしてあげたい。色々とリサーチしておかないといけないな。俺も楽しみができた。
「さぁ、そろそろ戻ろうか」
「はい。藤堂先生、ご馳走様でした」
「また一緒に食べよう。全メニュー制覇しようか?」
「飽きちゃいますよ。毎回ここにしてたら」
「あはは。さぁ、午後からも頑張ろう」
ふたりは病棟に向かって歩き出した。
「根回ししたとはいえ、やっぱり誘うのは緊張したな。陽菜ちゃんのおすすめ、味覚えてないや。また食べよう」




