藤堂先生×坂倉真智
──ちょっと本人にバレたら恥ずかしいけど、目的のためには恥ずかしがってはいられない。あの師長にお願い事をするのは弱味を握られるようでイマイチ声をかけにくいな。
「あら、藤堂先生どうされたんですか? なにやら難しい顔してますよ」
この病棟の師長の右腕とも言われている、坂倉看護師に声をかけられた。
「そうですか?」
──師長もそうだけど、この人もこういうのは鋭いんだよなぁ。この病棟看護師恐るべしだな。陽菜ちゃんも病棟では師長や坂倉さん並に鋭い感性があり、この病棟になくてはならないひとりのナースだが、しかし、休憩中やプライベートは、天然ちゃんな部分があってギャップにやられるんだよなぁ。罪な子なんだなぁ実は。医局でもたまに話題になってる程だし。
「何か企んでるような……ふふっ力貸しますよ藤堂先生」
「心強いですね。助かります」
──バレてるのか? この際、協力してもらおうか!? 敵に回すとこれから先やり難い。
「それで? どうされたんです? 相談にのりますよ。今のうちですよ。ふふっ。それに今は陽菜居ませんしね」
──完全にバレてる。なんでだ? でも大人の対応してくれている病棟に感謝だなと思う。同期の外科医の真壁は、ナースステーションは極力行きたくない場所のひとつだと愚痴ってたなぁ。ここのナースステーションは、いつ行ってもそんな嫌な雰囲気はない。岩崎なんて何もないのにナースステーションに来て長居してるくらいだし。ここのナースさん達には感謝しなくては。
「坂倉さんには隠し事できませんね」
「あら、私だけじゃありませんよ。師長も何となくは気づいてるんじゃないでしょうか」
「そうなんですか?」
「先生、ここに入ってくる時の癖、気づいてますか?」
「癖なんてありましたか?」
「気づいてなかったかぁ。負けた。やっぱり師長には敵わないなぁ」
坂倉看護師と依元師長で何やら勝負でもしていたのであろうか? しかも俺のことで。
「俺、何かやらかしてました?」
ここは素直に聞いておくべきであろうと思い尋ねてみた。
「藤堂先生、ナースステーションに入って来ながら、陽菜を目で追いかけてますよ。見つけたら微妙に広角上がってますし」
──こわっ。ウチの看護師観察力凄すぎて言葉が出ない。
「えっ! それはやらかしてますね俺」
「私と師長くらいですよ。気がついてるの。本人は熱い視線送られてるのに、気が付いてませんしね。頑張ってくださいね? 藤堂先生」
「あっ、はい。ありがとうございま……す?」
「何故、疑問系なんですか。ここに来た理由なんとなくわかりましたけど、師長に言ってくださいね。シフトは師長が管理してますから」
「はい、ありがとうございます。相談させていただきます」
「了解です。へぇ〜。楽しみねぇ。ふぅ〜ん。藤堂先生が、陽菜と……ねぇ」
──何やら頭の中で妄想が繰り広げられていないか?
「あっ、そうそう藤堂先生。師長、奥の休憩室に居ますよ。差し入れのおやつ食べてましたから。今、機嫌いいと思いますよ」
「ありがとうございます」
坂倉さんから謎のアドバイスと現状を聞き、俺の背中を押してくれたんだと理解する。




