【回想①】陽菜×思い出
今の周産期医療センターのNICUに配属される前に一般病棟や緩和ケア病棟に研修配属された事がある。私に限らずウチの病院の新人看護師は全員同じように経験値をあげるためや自分の適性を見極めるために数ヶ月研修先の病棟で看護を学ぶ。
桜の花を見つめていると緩和病棟で研修している時のことをたまにふと思い出す時がある。私が受け持った白川優愛さん。初めて看取った患者でもあるし色々と学ばせてもらったからなのか心の奥に大切にしている思い出でもある。
白川さんは余命宣告を受けこの緩和病棟へ転科してきた。指導看護師の百瀬看護師について、白川さんの担当についた。白川さんは元の病棟看護師とひとりの男性に付き添われ緩和ケア病棟にやってきた。
「はじめまして。担当看護師の百瀬です。そしてもうひとり研修中の新人看護師の矢崎陽菜。ふたりで担当させていただきます。何かあれば遠慮なくお声かけ下さいね」
百瀬看護師が、サラッと紹介を済ませて私に振り向き
「バイタルチェックしてくれる」
「はい。ナースステーションから必要なものを持ってきます」
「よろしくね」
一旦、病室を出てナースステーションに戻り必要なものをナーシングカートにのせて病室に戻る。
「失礼します」
扉をノックして、ナーシングカートを押して病室に入る。百瀬看護師が、スッと端に寄り私に場所をあける。
「白川さん、まず検温してもらっても良いですか」
私から体温計を受け取りさっと脇の下に挟む白川さん。終了音が鳴るまで次の準備をしながら白川さんの様子を見守る。
ピピッ ピピッ ピピッ
体温計の終了を知らせる音が鳴る。
「お預かりしますね。36.4℃ですね。血圧を測りますね」
白川さんの腕にマンシェットを巻く。そして橈骨動脈を触知しながら、70mmHgまで加圧する。その後、10mmHgずつ加圧しつつ、橈骨動脈が触知できなくなった時点から20〜30mmHgくらいまで加圧する。次に、1秒間に2mmHgずつ減圧して、橈骨動脈が触知できるところを確認する。収縮期血圧を確認したら、すべての圧を排気して終了する。
看護学生の頃、嫌というほど練習してきた血圧測定。グループの仲間と腕を貸し借りしながら練習したのが今に活かされているんだと感謝する。
一通りの事を終え、計測した数値を書き込んで病室を後にする。
「こちらの建物内なら自由に歩かれて大丈夫ですよ。中庭や売店などに行かれる場合は看護師に一言お伝え下さいね」
「わかりました」
白川さんと付き添っていた男性が私に問いかけてきた。
「中庭って?」
「緩和ケア病棟には中庭があるんですよ。ご案内しましょうか」
「はい。矢崎さんの手の空いた時で良いので教えていただきたいです」
「わかりました。それでは、白川さんが落ち着いた頃に病室にお邪魔しますね」
「ありがとうございます」
百瀬指導看護師と揃って病室を後にしてナースステーションに戻った。
緩和ケア病棟は、一般病棟と違い規則が厳しくない。患者の心に寄り添う事を心がけている。
中庭には立派な桜の木があり春には見事に桜が咲き誇っていて患者や家族、そして私たち医療従事者にも癒しの場となっている。