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藤堂先生×心配②

 書店に入って気になっていた書籍を探し、普段はなかなか足が向かない外出に時間を忘れて意外と楽しんでいたようだ。スマホを取り出し液晶画面を確かめる。陽菜ちゃんからの連絡はない。しかし、あの様子が心配だった。一度連絡してこれからの行動を考えよう。陽菜ちゃんの番号を呼び出すと、発信のボタンをタップする。少しして陽菜ちゃんと電話が繋がる。  


「もしもし藤堂先生。ありがとうございます。助かりました」


 陽菜ちゃんの疲れたような声に聞こえた。だからなのか自然に。


「どうしたの? 困ってるなら助けに行こうか?」


「えっ、先生帰ったんじゃないんですか?」


 陽菜ちゃんの驚いたような声に、イタズラが成功したような感覚になった。そして素直な言葉を伝える。


「心配だったから陽菜ちゃんからメッセージもらったら帰ろかと思って近くにいたんだよ。良かったら行こうか?」


 陽菜ちゃんが今置かれている状況を伝えてくれた。帰りたいのに頼み事を聞いてくれるまでは帰さないオーラを出されて困ってるのだという。


「今、どこにいるの?」


「ナースステーションで話題に上がっていたカフェです」


「あ〜、あそこね。わかった。10分待ってて、すぐに行くから」


 通話を終わらせ、すぐに向かった。なかなか男一人では入りにくそうなカフェだった。ナースたちが噂しているだけあって可愛らしい雰囲気のあるカフェだなぁと思う。ふと窓際を見ると陽菜ちゃんの困り顔がみえたので、迷わず入り口を開けてその席へと進んだ。


「藤堂先生」


 俺に気がついた陽菜ちゃんが声をかけてくれたので、そのまま話しかけた。


「陽菜ちゃん、隣り良いかな?」


「もちろんです」


 笑顔で隣りを勧めてくれたので座って様子を見ることにした。当然ながら。


「えっ? さっきの人……陽菜ちゃんお医者さんとお付き合いしてるの? 永遠君は知ってるの? そんな立派な彼がいるのなら永遠君にお守りしてもらわなくても良いんじゃないかな?咲百合ちゃんとお付き合いしたり結婚したって」


 機関銃のように話し出したこの人に陽菜ちゃんは呆れたように返事を返す。


「さっきも言った事ですけど、私が兄を縛りつけているわけでもないし、兄だって私に彼氏ができるまでとか私が結婚するまで……なんて思ってる訳ではないと思います。兄自身が、渡辺さんに伝えた事が真実だと思います」


「永遠君に何回か、先輩の私から咲百合の気持ちを話したけど、聞いてくれないから妹のあなたに言って欲しくてお願いに来たんじゃない」


 わがままなお願い事を持ち込んできたんだなぁと思い、陽菜ちゃんをチラッと見る。すると、全く話の通じない人間を相手にして疲れていることが見て取れた。さっさと終わりにさせて連れ出してあげようと会話に入ることにした。


「僕が言うのもなんなんですが、恋愛に関して妹に言われたからといって『わかった。じゃあ付き合ってみるよ』なんて言わないと思いますよ。実際に陽菜ちゃんのお兄さんは、はっきりお断りしているんですよね?」


「咲百合は、本当に良い子なんです。純粋に永遠君を思って……」


 なかなか諦めてくれない人だなぁ。自己中心的でいて、なおかつ自分の考えがいちばん正しいと思っているんだろうなぁ。


「それは陽菜ちゃんのお兄さんが自分で決める事です。既に答えは出ていると思いますけど」


「だから考えを改めるように家族である妹の陽菜ちゃんに言ってもらおうとお願いしてるのに」


 こんな人がそばにいてあれこれ指図されるとわかってたら、交際に発展する事はないだろうなぁと他人事ながらそう思った。そんな時だった。陽菜ちゃんが決定的な言葉を発した。


「咲百合さんが直接、兄に思いを伝えて白黒はっきりさせたら良いじゃないですか? その方がここで話しているより早いし納得できるんじゃないですか?」


 正論だった。周りが手伝うのは引き合わせたりするそこまでであって、それ以降は本人同士で決める事。他人がどうこうする事ではない。だから今の陽菜ちゃんの発言でこの話は終わりと思い言葉を続けた。


「陽菜ちゃんの意思は先程本人が伝えました。なのでそろそろ連れて帰りますね」


 そう言って伝票を手に取り席を立つと、慌てて陽菜ちゃんが追いかけてきた。


「先生、私が払いますから」


 鞄から財布を取り出そうとしていたので手で制して。


「陽菜ちゃん、カッコつけさせて」


 そう言って会計を済ませる。店を出ると陽菜ちゃんがお礼を伝えてくれた。陽菜ちゃんの愚痴も聞いてあげないといけないなぁ。


「送っていくよ」


「電車で帰りますよ。藤堂先生お疲れでしょうし。無理はさせられません」


「一緒に帰ろう。ねっ」


 陽菜ちゃんは頬をほんのり染めてはにかんだ様子で一言。


「はい。お願いします」


 その返事を聞き、駐車場へ向かって歩き出すと陽菜ちゃんの歩幅に合わせ歩き出した。


「藤堂先生、今度一緒にあのお店にランチ行きましょう。せっかく素敵なお店だったのに、こんな……楽しい思い出に上書きしてください」


 陽菜ちゃんが、可愛いおねだりをしてくれた。もちろん返事は「Yes」だ。


「人気のメニューを色々頼んでシェアして食べても良いよね。美味しそうなものたくさんあったし。いや〜よかったよ。ひとりで入るには気が引けてたんだ。みんなに自慢しちゃおっかな」


「話題についていけないと困りますもんね」


 そうじゃなく、俺が自慢しようと思ったのは、陽菜ちゃんとふたりで食事をしたってことで、まぁこれは、心の内に留めておくことにしよう。とにかく陽菜ちゃんを助けてあげられる事ができて良かった。偶然、通用口で見かけた事に感謝しよう。


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