藤堂先生×心配①
基本自炊をしているが、今日は慌ただしく疲れたのもあり、スーパーにでも寄って手抜きでもしようかと考えていた。
職員通用口を出たところで、聞き慣れた声が聞こえてきた。ふとそちらに視線を向けると、病棟看護師の陽菜ちゃんが、困った表情をしていたのが伝わったから声をかけることにした。
「あれ? 陽菜ちゃん。どうした?」
「藤堂先生……」
陽菜ちゃんは俺を見ると、一瞬ホッとした表情をしたように感じた。話しを聞いてあげた方が良いかと思い、相手は病院関係者じゃないと感じたので。
「陽菜ちゃん、明日のカンファのことでちょっと伝えておきたいことあるからちょっとだけ良いかな? ちょっとだけ陽菜ちゃん借りますね」
そう言って、尋ねてきたであろう客人から陽菜ちゃんを遠ざけた。
「すみません。少し外します」
陽菜ちゃんは相手に頭を下げると、俺の方へ歩いてきた。話の内容を察したのか、その人も一旦この場を離れ、コンビニへと向かって行った。すぐに陽菜ちゃんへ問いかけると、これまでのやり取りを話してくれた。
「陽菜ちゃんにどんな用事があるの? 予想できる?」
「全くわかりません」
「そうだよね。俺はもう帰るだけだから困ったら連絡しておいで。番号交換しようか」
そう言ってスマホを取り出し陽菜ちゃんと番号を交換した。陽菜ちゃんは自分のスマホを見つめて。
「病院用の携帯では、よく藤堂先生の番号呼び出してコールするの慣れてるんですけど、私用のスマホに藤堂先生の連絡先があるなんて、ドキドキしますね」
そんな可愛いことを言ってきた。普段の仕事中とは思えない仕草だ。
「同じだよ。困ったらいつでもかけておいで。相談でも愚痴でもなんでも良いから。遠慮しなくていいからね」
「ありがとうございます。助かります。心強いです」
そう言うと、はにかみながらスマホを胸に抱える陽菜ちゃんはやはり可愛かった。
「さっきの人、戻ってくるね。コンビニから出てきたよ」
「嫌ですけど、とりあえず行ってきます。何かあってもなくてもメッセージ入れますね」
「いやいや、何かあったらメッセージじゃなくて電話でしょ。緊急コールして。すぐに行くから」
「わかりました。そうさせていただきます」
陽菜ちゃんを困らせている女性が、コンビニから戻ってくるのと入れ替わるように俺はその場を離れた。
駐車場に戻り車に乗り込むと、いつもならすぐにエンジンをかけ帰宅する所だが、今日は陽菜ちゃんから何らかの連絡があるまでは、近くで待機しようと思い、近くの書店に気になっていた書籍を探しに向かった。




