陽菜×厄介②
病院から少し歩くと、落ち着いた雰囲気のカフェがある。看護師の間でも今話題のカフェだ。
初めて入る店内は、みんなが噂するだけあり、落ち着いた雰囲気で隣との間隔も広く取ってあり、ゆっくり過ごす人にとってはとてもいいお店だ。正直こんな気持ちで来たくなかったなぁと思う。
いちばん奥の窓側の席が空いていたのでそこに座ると、渡辺さんは私にメニュー表を差し出した。
「好きなもの頼んで。今日は私に付き合ってもらったんだからご馳走させて」
「私も社会人なので大丈夫です。兄に叱られても嫌なので自分で払います」
「永遠君はそんな事で叱らないでしょ? 妹自慢してるくらいだもの」
えぇ、何してんのお兄ちゃん。とりあえず早く注文して、目的の話を聞こうじゃないかと思い直す。
「カフェオレにします」
私がそう言うと、渡辺さんは店員さんに注文をお願いした。
「カフェオレと、アイスティーをひとつお願いします」
注文を終えると、渡辺さんが話を始めた。
「私と同じ同期入社の子で後藤咲百合ちゃんって言うんだけどね。すごく良い子なの」
「…………」
「その子、永遠君が入社してからずっと補佐しててね。先週一緒にランチしたんだけど。その時に……」
「お待たせ致しました。カフェオレのお客様」
運良くと言うか、絶妙なタイミングで店員さんが注文品を持ってきた。
「あっ、私です」
そう言うと私の前にカフェオレを置いてくれた。もう一つのアイスティーを渡辺さんの前へ置き、伝票立てに丸めた伝票を差すと、カウンターへ戻って行った。
「途中になっちゃったわね。続き話してもいいかな? 飲みながら話しましょう」
「はい」
渡辺さんの言いたいことは大体予想できた。わたしを待ち伏せしてまで話さなくてはいけない事なのかは疑問が残るけど。
「咲百合ちゃんが永遠君を想ってるみたいで後押ししたの。永遠君にも勧めてみたのよ。お付き合いしてる女性がいないなら咲百合ちゃんどう? って。そしたら永遠君、入社当時からお世話になったのに全く興味なさそうでね。妹を見守らなきゃいけないし、押し付けられる恋愛はしたくないって言われちゃって」
はっ? 私、関係なくない? 仕事終わりで疲れてるのにいきなり来て、こんな話? ほんと迷惑なんだけど。
「えっ? 私関係ないですよね?」
「妹見守らないとって話してたから、陽菜ちゃんが永遠君に話してくれたら良いと思うの」
「えっ? 何をですか?」
「そろそろ自分の事を真剣に考えたら? って。妹のお守りばかりしてないで、幸せを捕まえてって言ってあげたら永遠君、肩の荷が降りるんじゃないかな?」
言いたい放題言ってくる。この人にはきっと何を言っても無駄だろうが、言わないと伝わらない。
「私、別に兄に養ってもらってるわけじゃないので、お守りしてもらってなんかいませんよ。たまに、ご飯連れて行ってくれたりしますけど、兄妹なので。他の兄弟は知りませんけど別に他所と変わらないと思いますけど」
「ご飯行った時、仲良かったもんね。羨ましいくらいだったもん。私は妹がいるんだけど、同性だけどあなた達ほど仲良くないから」
そんな事言われても……。と思ったけど、わざわざ待ち伏せし、無関係の私にこんなことを言うためにやって来るような人だから、きっと妹さんは距離を置かれているのかもと思った。
「兄の事は、兄本人が決める事で私がどうこう言うことではないと思います。私は兄へお節介な事はしません。相談されたら別ですけど、何も言わなければ兄の判断に任せます」
「お兄さんの幸せを願わないの?」
「願ってますよ。幼い時から傍にいて支えてくれた兄ですから」
「だったら、協力してくれてもよくないかしら?」
何度言ってもわかってもらえない。平行線のまま。
「兄自身が、押し付けられる恋愛はしたくないって言っているのなら、もう答えは出てるんじゃないですか? ここまではっきり言っているなら、無理だと思いますよ。兄は昔から意思が強い方なので」
「だからこうしてお願いに来たのに」
もうそろそろ、帰りたいんだけど。こんな話ばかり繰り返しても意味がないと思う。そんな時、私の鞄の中から、着信音が鳴った。




