陽菜×社交辞令
救急車の中から病棟に連絡を入れる。
「お疲れさまです。矢崎です。渡瀬レディースクリニックからの搬送はありません。藤堂先生と帰院中です」
「わかりました。陽菜ちゃんの大好きなプリンを休憩室の冷蔵庫に大きく名前書いて入れてあるからねぇ〜。食べてね」
「田上先輩、ありがとうございます」
報告の電話を入れたら、田上先輩だった。出る時に言っていたプリンの件は本当だったんだと今更ながら思った。
「今日、陽菜ちゃんが搬送担当だなんてラッキーだったなぁ。だいたい依ちゃんの嫌がらせかと思うくらい前田君なんだよ」
「あはは。何かありましたか?」
「いや、特にこれと言ってないんだけどさぁ。鴻上先生とかが、搬送で出て保育器空で帰るとき楽しかっただの、今度ご飯に行くことになったとか毎回楽しそうなんだもん」
「なんだもんって藤堂先生」
「陽菜ちゃん、今度ご飯行こうよ」
「焼肉とか匂いがキツイ系は嫌ですよ。そういうのは前田君とか笹井君とかドクター同士で行ってくださいよ」
「えぇ〜、それは勘弁して欲しいなぁ。わかった。じゃあおしゃれなところ探しておくね」
「楽しみにしてます」
ドクターのお誘いを社交辞令でサラリと受け流し、空っぽの救急車は帰院して、私は病棟に藤堂先生は医局へと戻った。
「ただいま戻りました」
「陽菜ちゃん、おかえり」
病棟は何もなかったようで静かな時が流れていた。