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陽菜×ハプニング

──今日も忙しかったなぁ。疲れたぁ。


 今日は居残りをしたため、いつもより遅い帰宅となった。

 病院と駅を繋ぐ通路を歩いて改札を抜けると、そのままホームへ向かった。外に出なくても良いのが便利で、患者さんからの評判もいい。


『ドアが閉まります。ご注意下さい』


 直後、私の目の前で扉は閉まり、電車は行ってしまった。


──あっ、行っちゃった。


 次の電車までしばらくホームで待つ。その時、私の後ろで賑やかな声が聞こえたかと思うと、それは突然泣き声に変わった。その声を目で追うと、幼い女の子が転んでいた。


「大丈夫かな? 痛いところあったら教えてくれる?」


 私は笑顔でそう話しかけながら、女の子の全身をひと通りサッと確認をすると、その子のお母さんと思しき人が、大きな荷物をたくさん持って歩いてきた。


「走ったらダメよって言ったでしょ。走った瑠璃るりちゃんがいけないんだよ」


 そう言いながら私に向かって会釈をした。


「娘がすみません。大丈夫でしたか?」


「私は大丈夫です」


 そう言って女の子に向き直る。


「瑠璃ちゃん、どこか痛いかな?」


「ここぉ」


 そう言いながら膝を指差した。そして。


「おねえしゃん、病院の匂いする」


 この子凄いなぁ。丸一日病院の中にいたら、病院の匂いになるよね。と納得しつつ。


「お姉さんね、そこの病院で看護師さんしてるんだよ。痛いところ見せてもらっても良い? 擦りむいてたら絆創膏ペッタンしてあげるね」


 膝を見ると少し擦れたのか白くザラザラしていたが、怪我はしていない様子だった。


「うん。血出てないし大丈夫そうだね。偉かったね。ちゃんと見せてくれてありがとう。もう痛いのなぁい?」


『ない!」


「そう。良かったね」


 女の子にそう言って、お母さんの方へ向き直った。


「酷く擦りむいている様子はないです。皮膚が少し白くカサカサしているのは、転んだ時に地面に膝が着いた時のものだと思います。もし、気になるようなら病院へ行ってくださいね」


「ありがとうございます。軽く転んだくらいで病院行ってたら大変な事になりますよ」


 そう言ってふたりで笑い合った。すると、女の子のお母さんが。


「お姉さんにありがとうして帰ろうか? もうすぐ電車くるよ」


 お母さんにそう言われて女の子は私の前に立ち。


「ありがと」


 お礼を言って、笑顔を見せてくれた。


「どういたしまして」


 居残りで帰りも遅くなったけど、微笑ましい出来事に心が軽くなった。


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