NICU×GCU
「陽菜ちゃん」
お昼休憩から戻ったタイミングで依元師長に呼ばれた。
「はい」
「来週、NICU、GCU研修があるんだけど、ウチの病棟からは陽菜ちゃんに出席してもらおうと思うんだけどどうかしら?」
「はい、しっかり勉強してきます」
「詳しいことは後からプリント渡すわね」
「GCUですか。やっぱり違うんでしょうね。NICUから退院するのと、一旦GCUに転科してから退院するのとでは」
「その辺を学べたら良いんじゃないかしら。何かしら参考になる部分はあると思うから」
依元師長とそんなことを話している時、悟が声をかけてきた。
「陽菜先輩、異動なんですか!」
「えっ? どこに?」
「いやいや今、GCUがどうのこうのって言ってましたよ。寂しくなります。育ててもらった事はしっかり受け継いで行きますからね」
コイツは何を勘違いしてるんだ? 研修って言葉を聞いていなかったのだろうか。
「悟」
「はい! 陽菜先輩」
警察官の敬礼かと思わせるほどの姿勢の良さに思わず笑いそうになったけど、盛大な勘違いをしている事にイタズラ心がムクムク湧いてきて。
「悟、GCUってなに?」
「えぇ〜? 陽菜先輩GCUご存じないんですか!?」
そう意味で聞いたんじゃないんだけどなぁ。まぁ、ちょっとだけ意地悪してみよう。悟の後ろで師長も真智先輩もクスクス笑ってるから、考えていることは私と同じであろうと思う。だから早速。
「ウチのと違いを教えて」
「陽菜先輩に教える日が来るなんて、僕真面目に頑張ってきて良かったなぁ」
弥生先輩まで悟の後ろでスタンバイしてるではないか! 悟、きっと後から弄られるよ。覚悟しておきなね。と心で伝えておく。
「それで? 違いはなぁに?」
「ウチの病棟でおっきくなった子たちが行くところですよ。ウチのセンターにはないですけどね」
えっ? それだけ? この子、指導者には向いてないなぁ。先輩たちの方をみると、真智先輩はやっぱりね。と言う心の声が溢れてる感じが否めない。弥生先輩は涙浮かべて大笑いしているし。堪えきれなかったのか依元師長が。
「陽菜指導看護師」
「はい」
「笹井さんに違いをしっかり教えておきなさい」
悟めっ。私が叱られたやん!
悪ノリした私がいけなかったのか! 真智先輩と弥生先輩が大笑いして私を取り囲んだ。
「陽菜ちゃん、どんまい」
弥生先輩、はじめから大笑いしてましたよね。
「陽菜、余計なこと悟に振っちゃったね」
真智先輩、師長に名前呼ばれた時点で後悔しましたよ。
「まさか、こんなことになるとは思わなかったんだもん。先輩助けてください」
助け舟を求めると、ふたりして。
「さぁ、お昼休憩入ろう」
「沐浴準備しよう」
えぇ〜、そんなあからさまに逃げなくて良くないですかぁ!
「陽菜先輩、先輩達行っちゃいましたね」
「そうだね。それじゃあ勉強しようか、悟」
「ふえっ? 僕ですか?」
「他に誰がいるの?」
テーブルの方へ移動して、悟に指導していく。
「それじゃあ、説明していくね。GCU(Growing Care Unit)とは、NICU(Neonatal Intensive Care Unit)で治療を受け、状態が安定した後に移され、ケアを受ける病棟のこと。低出生体重で産まれたり、状態が悪かったりなどの未熟児や新生児は、NICUで治療を受け、ある程度状態が落ち着き、クベース無しでも自力で体温管理・呼吸ができるようになると、GCUに移動して退院の準備を行なうんだよ。
NICUは、未熟児が成長できるように母親のお腹の中の環境になるべく近づけるため、室温は高く保たれ、照明も暗くし配慮された静かな環境づくりがされているけど、GCUは退院に向けて自宅のような環境に近づけるために、昼間は明るく、夜間は照明を落とすなどして、昼夜のリズムをつけるような環境づくりをしてるんだよ」
「陽菜先輩、凄いっすね。知らないかと思っちゃったじゃないですか。GCUって? なんて言うから」
「陽菜ちゃん、先生してるの?
問題児抱えて大変だな。あはは」
ナースステーションで電子カルテに何やら打ち込んでいた藤堂先生が声をかけてくれた。
「藤堂先生、酷いっすよ。僕真面目ですよ」
「そうだったね。指導看護師さんにきちんと着いていきなよ。丁寧に教えてもらってるんだから」
「了解です!」
手のかかる子だけど、教えたことはしっかり身につけてるようだし、ムードメーカー的な悟にこれからも手を焼くんだろうなぁと思いつつ、背中を押してあげられる先輩でありたいと思っている。
「ちなみにGCUについては前にも教えてるんだからね。3回目はないと思いなさい」
「はははっ! やだなぁ陽菜先輩。これが3回目ですよ。しっかりしてくださいよ」
「何がはははっよ。しっかりするのはあんたでしょうが! はい、今日のランチは悟のおごりね」
「そんな〜!」




