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陽菜×皮膚科

「陽菜、皮膚科受診しておいで。皮膚科に連絡してあげるから」


 真智先輩が声をかけてくれた。


「手袋が原因かなぁ? カサカサして荒れてるんです。市販のハンドクリームは限界があるんですかね」


 真智先輩は私と話しながら器用に電話の受話器をあげて内線をかけた。砕けたように話している姿に、知ってる人だったのかなぁと、どこかぼんやり見つめていた。


「陽菜、病棟の方においでだって。病棟の処置室で診察してくれるって」


「ありがとうございます。今から行ってきても良いんですか?」


「うん。良いよ。行っておいで」


「ありがとうございます。それでは行ってきます」


「慌てなくて良いからね。ゆっくり行っておいで。寄り道しないで帰っておいでよぉ〜」


「はーい」




 周産期医療センターは別棟になっているため、皮膚科など受診しようと思ったら、別棟へ行かないといけないから少し距離がある。同じ理由で売店なども遠い。外来の診察室ではなく、病棟で手の空いているドクターに診察してもらえるのは、ありがたい職員の特権であろう。


 皮膚科病棟のナースステーションで声をかける。


「NICUの矢崎です。先ほど内線で診察をお願いしていたんですが。今、大丈夫でしょうか」


「あっ、真智から聞いてるよ!どうぞ、処置室の方へ案内しますね」


「ありがとうございます」


 処置室に向かいながら真智先輩の知っている人なんだなぁと思っていると。


「真智にこき使われてない? 残業押し付けられたりとか売店行ってきてとか」


「ないですよ。たぶん」


「あはは。たぶんって。ウケるんですけど。真智何やらかしてるの?」


「残業とか売店行ってきてとかはないんですけど、オムツ替えておいてとかはよくあります」


「あはは。真智仕事放棄じゃん。働けよ」


「でも、こうして皮膚科行ってきて良いよって言ってくださいました。優しい先輩です」


「手懐けられちゃってるね。困ったことがあったら私に言いにおいで。助けてあげるからねぇ」


 いやいや、何もないことを祈ります。処置で皮膚科医に診察してもらい塗り薬を処方してもらった。


「処方箋書いておくから。受け取りは、ここじゃない方が良いよね?」


「薬科に取りに行きますよ」


「病棟に届けてもらおうか。周産期だったね」


「はい。NICUです」  


「それじゃあ、NICUに頼んでおくから受け取って。また調子悪かったらいつでもおいで」


「はい。お忙しいのにありがとうございました。先生、甘いもの苦手とかじゃないですか?」


「ん? お菓子大好きだけど変かな?」


「先生に差し入れです」


 病棟の休憩室に置いてあった差し入れのフィナンシェを先生に渡す。


「おっ、それじゃあ遠慮なく頂こうかな」


「休憩はしっかりとってくださいね」


 こういうわがままな診察してもらえるのってウチの病院の良いところだなぁと思う。医療費もかからないし。


(さぁ、病棟に戻ろう。真智先輩、ありがとうございました。寄り道しないで帰ります)


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