陽菜×抜き打ちテスト
「陽菜先輩!」
悟が、電子カルテのチェックを終えて私に話しかけてきた。
「チェック終わった?」
「もちろん! それより陽菜先輩。ナイチン誓って今でも言えます?」
「うわぁ、懐かしい。学生の頃白紙の紙渡されてナイチンゲール誓詞書いて! って言われたわ。って何今頃!?」
「昨日、本箱片付けてて、出てきたんですよ。テキストに挟まれたナイチン誓詞のテストを見つけちゃったんです」
「懐かしい。私もやったよ。教授の無茶振りでさぁ。半分くらいしか書けなかったような気がする。悟、言ってみて」
「紙に書き合いましょう。競争です」
「なんでそうなるの!?」
私たちのやり取りを聞いていた弥生先輩が。
「一文字でも多く正解を書いた方にご褒美あげる」
えぇ〜、先輩、そこはやめるように言うのが正解でしょ。なんで対決することになってるの?
仕方ない。思い出そう……ってか、なんだっけ? 出だし。忘れたぁ。悟を見ると、既にペンを走らせてる。うわっ、負ける! やばい。先輩の威厳が……。
あっ、思い出した。出だし!
“われはここに集いたる人々の前に厳かに神に誓わん”
“わが生涯を清く過ごし、わが任務を忠実に尽くさんことを”
“われはすべて毒するもの、害あるものを絶ち、悪しき薬を用いるもとなく、また知りつつこれをすすめざるべし”
“われはわが力の限り、わが任務の標準を高くせんことを努むべし”
この後、なんだっけ? もう無理、思い出せない! 悟もギブアップ状態だった。
「それでは終わり! 答え合わせします」
「悟、紙見せて」
弥生先輩が、どこやらで調べてきたナイチンゲール誓詞の全文と照らし合わせる。
“われはここに集いたる人々の前に厳かに誓わん”
“わが生涯を清く過ごし医師を助け、人々の幸せのために身を捧げん”
「悟、中身すっからかんじゃん。それにさぁ、厳かに誓わん。って誰に誓うの?」
「昨日までは覚えてたんです!」
「はいはい。次は陽菜。見せて」
“われはここに集いたる人々の前に厳かに神に誓わん”
“わが生涯を清く過ごし、わが任務を忠実に尽くさんことを”
“われはすべて毒するもの、害あるものを絶ち、悪しき薬を用いるもとなく、また知りつつこれをすすめざるべし”
“われはわが力の限り、わが任務の標準を高くせんことを努むべし”
「めっちゃ覚えてるやん! でもさぁ、最後のひと文は欲しいよね。『わが手に託されたる人々の幸せのために身を捧げん』ここは欲しかったなぁ」
ってか、今頑張ってるんだから良くない? いつまでもナイチンゲール誓詞に悩まさせるなぁ。
ナイチンゲール誓詞 全文
われはここに集いたる人々の前に厳かに神に誓わん。
わが生涯を清く過ごし、わが任務を忠実に尽くさんことを。
われは すべて毒するもの、害あるものを絶ち、悪しき薬を用いるもとなく、また知りつつこれをすすめざるべし。
われはわが力の限り わが任務の標準を高くせんことを努むべし。
わが任務にあたりて、取り扱える人々の私事のすべて、わが知り得たる一家の内事のすべて、われは人に洩らさざるべし。
われは、心より医師を助け、わが手に託されたる人々の幸せのために身を捧げん。




