陽菜×頂き物
午後の落ち着いた時間が流れるナースステーションで、研修医の岩崎先生が、ここと医局を行ったり来たりしてひとり忙しそうにしている。
「岩崎先生、忙しそうですね」
「藤堂先生に無茶振りされてるんじゃない?」
「でも、岩崎先生別に嫌そうではないですよね。しっぽ振ってそうな雰囲気が伝わってくるんですけど」
「ドM岩崎降臨」
「厄介事が飛んでこないうちに休憩入っちゃお。よろしく〜」
「いってらっしゃい」
看護記録を書く横で先輩看護師たちが、岩崎先生をネタに盛り上がっていた。すると、その渦中の岩崎先生が声を掛けてきた。
「あのぉ、小谷優馬君の看護記録を探してるんですけど、どなたか知りませんか?」
カルテを見ながら岩崎先生が私達に問いかける。
「あっ、今書き足してますので、少し待ってもらえますか?」
私が書き記していたのが、岩崎先生が探している子の看護記録だった。
「あっ、陽菜ちゃんが持ってたんだね。それじゃあ、今からお昼ご飯にするから慌てなくて良いよ。久しぶりに外に買いに行ってこようかな」
「良いですね。今日はゆっくりランチタイムできると良いですね」
「ほんとだよ。いつもお昼休憩狙ってるんじゃないかってくらい、お昼ご飯が中途半端になっちゃうんだよね」
「岩崎先生、早くお買い物してきた方が良くないですか?」
「おう、そうだね。陽菜ちゃんありがとう。行ってくるね」
「いってらっしゃい」
岩崎先生を見送り看護記録の続きを書く。しばらくして、テイクアウトしてきたであろう紙袋を持った岩崎先生がナースステーションに戻ってきた。
「あれ、岩崎先生。医局で食べないんですか?」
「奥の休憩室借りるね」
何故か医局へ戻らず、ナースステーション奥の休憩室でお昼ご飯を食べようとしている岩崎先生。しばらくしてナースステーションの内線が鳴る。
「はい。NICU病棟ナース矢崎です」
「そこにさぁ、岩崎先生いる?」
岩崎先生の指導医、藤堂先生からの内線だった。
「はい、ナースステーション奥の休憩室でお昼ご飯を召し上がってらっしゃいます」
「あいつ、そこに逃げたんだな。陽菜ちゃん、今すぐに医局に戻るように伝えてくれる? 速攻でだよ」
「えっ? わかりました。今から伝えてきます」
「うん。陽菜ちゃんありがとう」
内線を切り、奥の休憩室に向かう。
「お食事中失礼します。岩崎先生、藤堂先生から至急医局に戻るようにと連絡がありましたので、医局へお願いします」
期間限定のハンバーガーと定番のハンバーガー、ポテトなどを買ってきたようで、休憩室の中はかなり匂っていた。お腹空いてたらヤバかったなぁとこっそり思った。
「やっぱりかぁ」
おいおい、確信犯かっ! と突っ込みそうになるが我慢する。早く医局に行ってもらわなくては、伝言頼まれた私が役に立たない事になってしまう。
「残っちゃいましたね。ここに置いておいて、戻ってきて後からランチを再開してください」
「期間限定のハンバーガー楽しみにしてたんだけどなぁ。戻って食べる時間ないと思うから陽菜ちゃんにこれあげる」
そう言って、岩崎先生が楽しみにしていたと思われる期間限定のハンバーガーを私に渡してきた。食べかけの残っていたハンバーガーを口に放り込みポテトも口に入れ片付け始めた。
「岩崎先生、ゴミは捨てておきます。早く医局へ行ってください。藤堂先生待ってらっしゃいますよ」
「ありがとう。行ってくるよ」
「コレ、ごちそうさまです。ありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして。それより片付けありがとう」
そう言いながら右手を軽く挙げて医局へ向かう岩崎先生。ありがたく期間限定のハンバーガーは私が美味しくいただくことに。既にお昼ご飯終わっていたので家に持ち帰り、食べることになりそうだなぁと思いながら業務に戻った。




